俺の日々 2020年9月前半

内田百閒、吾妻ひでお、目黒孝二、大森望坪内祐三……
魅力を感じる文章の書き手が綴る「日記」が好きだ。そもそも書き手自身に魅力を感じているから日記を読んでも面白いといえば、それまでであるが、「日記」にはふつうの文章とは違った色合いが出る。というわけで、書いてみる。
webコンテンツの潮流には真っ向から逆をいくような内容である。しかし、そもそも収益化だの、えすいーおーだの、読者のためだの……そうしたことを一切考えず、好き勝手気ままに書くことが、このブログの理想的な姿だ。
またこの一連のエントリは、アルコールのせいで日々消えゆく記憶とともに生きる人間の備忘録という意味もある。

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9/1(火)
変わらず同居人の友人が家に。人が一人増えるだけで、こんなにも家が賑やかになるのかとしみじみ思う。きっと孫が帰ってきたときの祖父母も似たような感覚になるんじゃなかろうか。いや、その方がもっと感慨深いんだろうけど。なんにせよ、愉快であることに変わりはない。

 

9/2(水)
昔から知り合って間もない人と会うときにはついつい飲み過ぎてしまうきらいがある。昨日はウイスキー、日本酒、ワイン、酎ハイのちゃんぽん。痛飲。当然のごとく気分が優れず、仕事は進まず。屍のようにモニター前に伏し続ける。
夜、初台のシンチャン(変換出てこず)ウイグル料理屋。干豆腐、羊肉、小籠包、ラグ麺。あとはタクラマカンみたいな名前の酒で喉を潤す。美味満腹。満足。

 

9/3(木)
珍しく週の終わりかけにもかかわらず仕事に集中。締め切りが立て込んでいたことと二日酔いでなかったことな大きな要因だろうと思う。そう思うと、いかに酒が悪いものなのか。
夜、△『戦国と忍』を読む。原典にあたって忍者の実態を紐解く心意気はわかるが……うーん。
同居人の友人が家を後にして、途端に静かに。

 

9/4(金)
仕事集中力皆無。どうせ土日にやればいいやのダメダメ精神が発動。夜、これまで付き合いのあった会社からスタッフとしての参画を打診され(というと聞こえがいいが実態は、あまりの落ちぶれぶりを見かねて声をかけられた、という具合だろう)、面談。それから、かつて仕事上の付き合いがあった編集者の先輩と恵比寿「たつや」。歳こそ離れている(二回りくらい)ものの、いつ会っても楽しい。つい甘えて飲みすぎるが、ウコンハイなので良かろう。

 

9/5(土)
ウコンハイの効能か、二日酔いなし。
10年来の友人Sと会いバスケ……をしようとするも、リングに集うちびっ子たちのあまりの技術の高さに己が居た堪れなくなり、早々に退散。銭湯に行き、常連客にいびられながらサウナ。幅を利かせる常連客、ってのはどんな所にもいて、どんな所でも厄介。しかし、サウナで遭遇するそれはとりわけ厄介。帰宅後、家でタコスをつくり、よく食べ、よく飲み、よく眠る。

 

9/6(日)
家に泊まった友人Sと共に東京03『ヤな塩梅』の配信ライブを見る。配信で4,500円というのはなかなか強気な金額に感じられてしまうが、適正価格というのも、それはそれでわからない。疑似同期性による適度な緊張感がありながらも、寝転がりながら鑑賞できる点がとても良かった。通信機能、つまりインフラの発展に伴って鑑賞スタイルはどんどん多様になりゆくのだな、と、当たり前のことを当たり前に思う。
夜、料理中に火傷。

 

9/7(月)
6:30起床。7:00仕事開始。早々に力果てる。

 

9/8(火)
何度同じ要望を伝えても空返事で無視し続けられるとさすがに辟易。いや、まあ、人と住むということはなかなか困難なもんで。結局は他人なわけですし、コロナ禍ですし、なんですし。と、まあ、なんとも愚かなストレスを抱えながら、「もう飯つくってやんねえ」といった気分で一人近所のデニーズに来ると、俺だけ見えてないのか。案内の声がかからない。これも運命。そう思うといくらか気持ちが楽になる。そうして、ここまで、なんとか生きてきたのだ。イライラに耐えかね、カットステーキを喰らう。異常といっていいほど温い。情けないことこの上なし。夜「桔梗」でラーメンとレモンサワー。

 

9/9(水)
30時間かけて△『龍が如く7』をクリア。それを含めて如くシリーズだと頭で理解しながらも、演出のあけすけさについていけず。

 

9/10(木)
終日仕事。契約書を待つもまだ届かず。
○西田藍『或る女おたく「おれ」』、○高山羽根子『白球を追いかける人、を追いかける人』、◎北村紗衣『私たちは帝国だったんだけど、とはいえ私はストームトルーパーにすらなれないかもしれない』、◎藤谷千明『バンギャルの見られ方』……もろもろ読む。総じて他のオタクとの差異……つまり、ムキー私は他のオタクと違ってこうだったんだー!が語られがちだった印象。企画の構造上そうなるのは避けられないものの、相対的でありながら総体的な論考が読みたかった。というわけで、藤谷氏の原稿が出色。
夜、ファーストシーズン以来に○『ラップスタア誕生』を見る。なんとItaq!しかも驚くほどかっこいい!内政を突き詰めた先のコンシャスさ。彼が高校生だった頃から聞いてきたってことを差し引いても良かった。

 

9/11(金)
仕事ほとんどせず、夜、同居人と仲違い。

 

9/12(土)
祝!場外馬券場営業再開!実質開店休業状態の人入りではあったものの、あの猥雑な場所が戻ってくる第一歩だと思うと感慨深い。昼、水道橋「ぽっぽっ屋」でラーメン。かれこれ10年以上通い続けている店のひとつ。
帰宅して△『THE BOYS2』1〜4話……を見るも、シーズン1の登場人物・相関関係がすっぽり抜け落ちており、何がなんやらわからない。Wikipediaを開いたスマホ片手に観賞することに。この記憶力の欠如はどうにかならんものか。それにしても、シーズン1で描かれたホームランダーの「お前……マジか……」感を越える衝撃が起こらなそうで、今後の展開はどうなることやら。夜、幡ヶ谷「可禮亜」で焼肉。店員の振る舞い、肉の具合、酒、何をとっても申し分ない。値段も手頃で、これはまたいい焼肉屋と巡り合ってしまった。春日の「新香園」に似ているところがある。いい。
1日かけてぱらぱらと○『本の雑誌10月号』を通読。穂村弘のエッセイで書かれていた「オリジン」を「オマージュした作品」で、オマージュした作品に先に出会っているとオリジンの衝撃が薄れる、どころか戸惑いすら覚えるという話に思わず膝を打つ。それでも、オリジン、つまり元祖が知りたいというところまで共感。わかる。

 

9/13(日)
外出・買い物。かねて「ほしいなあ、でも、わざわざ買うほどではないかなあ」と思っていたイヤホンを探しに新宿・ビックロ。売り場を一通り回るも、どれも同じように見えてしまう。家電に詳しい人はこういうときに明確な判断基準が持てていいよな、とつくづく思う。結局決め手は見た目と連続再生時間に落ち着く。ゼンハイザーのHD350を1万円強で購入。貧乏な自分にしては大きな買い物だが、ワイヤレスで30時間の連続再生が可能、断線の心配もない、何より仕事への集中力向上につながる(という希望的観測)のなら仕方ない額だと思い込む。これで片耳が断然したイヤホンから解放される。半年もの間そんな状態で乗り切ってきていたのだ。
新宿伊勢丹に流れ、カサゴとホタテを購入。これまでの間、歩きながらの飲酒で350ml×4本を午前のうちに消費。
昼寝の果てに、競馬のメインレース。ミスターメロディとダノンスマッシュの二頭軸から総流しにした三連複130倍が的中。リアルタイムで見られなかったもののホクホク。夜、アマプラのドキュメンタリー○『塀の中の少年たち なぜ彼らは殺人を犯したのか』を一気見。価値のあるドキュメンタリーという印象。

 

9/14(月)
「あの水道屋のやつ挨拶しねーんだよ」と、店員が出入り業者の愚痴を言っていたかと思うと、今度は同グループの店舗の売り上げを大声で喋るラーメン屋。すごいな、と思う。
夜、会社に退職の意向を伝え、サウナ。人によってさまざまではあろうが、自分にとってサウナの満足感を左右するものは混み具合の一点だなと痛感する。今日は最高。

 

9/15(火)
仕事の資料で△『ロンメル将軍 副官が見た「砂漠の狼」』読む。知識不足もあってか魅力が掴みきれず難儀。サンキュータツオ○『これやこの』を読み切って飲酒へ。健康診断の予約をしたが、肝臓の数値がとかく不安。

祝!場外馬券場入場再開!WINS後楽園の様子を観察してきた

 めでたい。ただただ、めでたい。2020年9月12日、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から入場禁止となっていた一部の競馬場(パークウインズ)・場外馬券場が営業を再開した。

 

 迷わず足を運ぶ。行き先はWINS後楽園。上京してから長らく通い続けた「なじみ」の場外馬券場だ。

 

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 水道橋駅西口を出て神田川を渡ろうとすると、まず、あまりの人の少なさにギョッとする。東京ドームでのイベントが規模縮小していることを差し引いても、まばらとしか言いようのない人並みだ。

 

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 入場には厳しい(今となっては当たり前ではあるものの)制限が課せられる。前の人と十分な間隔を取り、手指はアルコールで消毒し、マスクは着用が義務付けられ、モニターで検温…… かつて競馬場で行われていた大義名分のためだけの手荷物検査が嘘かのように、極めて丁寧な予防策がなされていた。

 

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 場内の店舗はすべてが閉店状態。

 

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 土曜日の午前とはいえ異様な人の少なさ。


 マークシートをまとめてさらう。ルーティーンのように繰り返してきたそんな動作も久々のこと。ついマークシートを取りすぎてしまう(これはいつものことでもある)。

 

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 レースが放映されていないこともあり、いつもの猛る声は聞こえてこない。
「投票カードをお取りください」
「このレースは発売を締め切りました」
「投票カードを入れるか、精算を押してください」
代わりに聞こえてくるのは、聞き馴染みのある券売機の自動音声だけ。

 

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 再開そのものは喜ばしいことこのうえない事態だが、かつての賑わいを取り戻すにはまだまだ時間がかかることだろう。

 

 とはいえ、数こそ、少ないものの、競馬を、ギャンブルを、WINS後楽園への愛着を持つ人が集っていたことは疑いようがない。何度も引用してきた言葉だが、「競馬場にいるかぎり、自分が人よりうんとダメな奴だと思わずに済んだ。」。そんな、ゆるやかな赦しの場としての雰囲気・機能は相変わらずだったように思う。


 運営費がかからないのだから、電子投票だけにして仕舞えば良い。資本主義的にいたって真っ当な意見だろう。ただ、場外馬券場や競馬場の賑わいは、競馬のひとつの華だと思う。私としては、いつまでもこの場所が残り続けてほしい。


 二日酔いの頭で予想を重ね、場外馬券場までの道中で、一度決めたはずの買い目を改めて逡巡する。現地に到着し、日々の暮らしでは体験し得ない博打を打つ。そんな場所があったっていいじゃないか。あってほしいのだ。

 

俺の日々 2020年8月後半

内田百閒、吾妻ひでお、目黒孝二、大森望坪内祐三……
魅力を感じる文章の書き手が綴る「日記」が好きだ。そもそも書き手自身に魅力を感じているから日記を読んでも面白いといえば、それまでであるが、「日記」にはふつうの文章とは違った色合いが出る。というわけで、書いてみる。
webコンテンツの潮流には真っ向から逆をいくような内容である。しかし、そもそも収益化だの、えすいーおーだの、読者のためだの……そうしたことを一切考えず、好き勝手気ままに書くことが、このブログの理想的な姿だ。
またこの一連のエントリは、アルコールのせいで日々消えゆく記憶とともに生きる人間の備忘録という意味もある。

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8/16(日)
午前中に仕事を片付ける。ここ数年、溜め込んだ仕事を大型連休になんとかする悪循環に陥っているが、もう自分の性格としか言いようがない。迷惑をかけて申し訳ないという気持ちと、いっても締め切りには間に合わせているんだからいいだろうと威張る気持ちが相克する。なんとも無価値な相克である。
内が有利な馬場、それでもって内枠を引いた逃げ馬。馬の力そのものは飛車角落ちとは理解しつつも、ミスディレクションの応援に熱が入る。現役馬(で多分)唯一のミスキャスト産駒。かつてのビートブラックに思いを馳せながら観戦するも、三分三厘に差し掛かる手前で急失速。
夕方、昨日見逃した◎『アルプススタンドのはしの方』を見るために外出。なかなかどうしてこういう青春映画なるものに嫌悪感があるものの、これはよかった。詳しい感想はこちら。
昼、夜ともに料理をして、映画、読書ときたもんで。カープが勝っていればいうことはなかったのだが、辛うじての引き分け。最下位転落。

 

8/17(月)
仕事。超集中。アルフレッド・ジャリの超男性ばりの集中ぶりだった。なので、超集中。
夕方、明後日に予約していた寿司屋から「お盆休み伸ばすから予約一旦取り消しで頼むわ」との電話。とんだ殿様商売〜〜〜!!! とはいえ、こちらは小市民。(俺にとっての)超高級寿司屋のいうことを甘んじることすらなく聞き入れ、別日に予約を入れ直す。夜飯はリクエストを受けて近所の焼きとん「まことや」に。ひっさびさに外に飲みに行ったら高エエエエ。貧乏な小市民に外食のハードルは高い。仕事の資料で『YouTube放送作家』(扶桑社)、『仮面』(扶桑社)を斜め読み。

 

8/18(火)
仕事。はかどらず。休憩の間にブックファースト新宿店まで行き、◎『SF映画タイポグラフィとデザイン』(フィルムアート)を買う。これは名著。資料的価値が高い。

 

8/19(水)
誕生日祝いに寿司を食べる予定だったが、一昨日に記したように予定は延期。これといって特別なことはなし。いや、一応近所の洋菓子店でケーキを買った。ケーキなんて買うのは何年ぶりか。十分特別なことだ。

 

8/20(木)
仕事。トラブル。特に気にすることなく最低限の原稿を書き、最低限の進行。夜には○『ピクセル』を観る。映画自体の出来はさておき奇形な人間が出てきて大変具合がいい。奇形が出てくるだけで、もうそれはいい映画だ。痛飲。

 

8/21(金)
仕事。ただひたすら原稿を直す。夕飯後『ドキュメンタル』。なんだかんだ笑いのあれこれは松本人志、ないし、ダウンタウンに教えられてきたように思う。いまの20代後半〜40代前半の人のほとんどはそうなんじゃなかろうか。もうちょっと上がとんねるずなり、ドリフターズ。もうちょっと下は……なんだ、はねるのトびらとかだろうか。

 

8/22(土)
代々木公園まで散歩。そこから原宿に抜けて竹下通りを散策。竹下通りのあまりの閑散ぶりに驚く。この街を支えていたのは地方のティーンエイジファッションマニアだったんだな……と、感慨深くなる。見方によっては十数年前の自分も、この街らしさをかたちづくる一人だったかもしれない。夜アバズレ風のエリート看護師、そして連続殺人鬼が主人公の『マッドナース』。主演のパス・デ・ラ・ウエルタの妖艶さを楽しむだけで満足できる。

 

8/23(日)
終日家。『ドキュメンタル』の過去回を見ては、『幻覚剤は役に立つのか』を読むのみ。競馬予想は的外れ。夜、本を読んでいるとアリに噛まれる。チクチクとした痛みが収まらず。

 

8/24(月)
朝から面接のため築地へ。それらしい服を着て、髪を整え、髭を剃った。世間の男性の多くは日々このルーティンをこなしているのかと思うと、その社会性(?)の高さに慄く。いや、自分自身の生活力の低さにゾッとする。

 

8/25(火)
食事会で連れてきてもらって以来まんまと虜になっている「鮨 かじわら」で夜飯。寿司じゃなくて鮨。そんな漢字が似合う。1人1万円。貧乏な小市民にはとんだぜいたく。ぜいたく野郎ですよ。

 

8/26(水)
昨日ぜいたくしたぶん仕事に精を出そうと意気込み、7時からモニター前。結果、15時ごろにはガス欠を起こす。一段落つけて劉慈欣の○『2018年4月1日、晴れ』読了。訳が魅力を削いでいる気がしないでもないが、相変わらずの爆発的な想像力。SF好きの枠を越えて広く読まれるのも納得。その後は飯を食べて『ジュマンジ』。いやはや素晴らしい映画じゃないか。こんなに素晴らしかったか……まったく初見時の記憶がない。歳を取れば取るほどこういう経験が増えるんだろうと思う。本当によかった。ジョー・ジョンストン、数十年後にはハリー・ハウゼンのように評価されるんじゃないか、これは。いや、この映画の魅力はそれだけではないけども。いやはや。SFとしてよくできている。

 

8/27(木)
仕事。まったく集中できず。筆は進まず淡々と時間が過ぎるのみ。夜はB社の人と食事。行く前は仕事を切られるのではないかと思ったが、まったくそんなことはないようで胸を撫で下ろして、中華料理爆食い。『サラリーマン球団社長』をいただく。もともと買おうと思っていた本をもらえるのは大変嬉しい。行き帰りで柴田勝家を読了。


8/28(金)
金曜日に集中して仕事に取りくめた記憶がない。月曜・火曜で週のタスクに張り切って仕事を進めては金曜日でギリギリ進行に落ち着く。毎週、毎月、毎年、スタートダッシュだけでどうにかやっている。逃げ馬に惹かれるのは、そんな自分を重ね合わせているところもあるのかもしれない。なんていうと綺麗言がすぎるか。
くまざわ書店初台店で『映画秘宝』『ユリイカ』を買い、読む。夜、オンライン飲み会。記憶がない。

 

8/29(土)
内臓が痛くなるタイプの二日酔いで体調悪し。

 

8/30(日)
日用品の買い出し。ついでに購入した『龍が如く7』をひたすらプレイ。

 

8/31(月)
同居人の友人が家に来る。張り切って料理を振る舞い、つい飲みすぎる。

最高の「応援」映画『アルプススタンドのはしの方』を観た

 これは傑作かもわからんね。振り返りながら(夜食の準備を後回しにして)感想をまとめる。

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 物語の背景・あらすじはこうだ。

 

第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞となる文部科学大臣賞を受賞し、全国の高校で上演され続けている兵庫県東播磨高校演劇部の名作戯曲を映画化。夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入していく……

 

 有り体にいえば、高校野球部を応援させられる非体育会系男女が紡ぐ物語である。

 とはいえ、映画において野球の場面は一切登場しない。これがこの映画の最大の特徴だ。まるで密室劇のように、(一部を除いて)アルプススタンドだけを映し続け、物語が展開する。
 しょうがないと思えるほど力差のある目の前の試合、大学受験の悩み、応援が結果にもたらす意味効果、演劇部で起こったトラブルからくるすれ違い、好きな男子の話……一貫して目の前で繰り広げられる野球の結果に大した興味を示さず(なんなら主人公格のキャラクターは「野球部の奴は偉そうに振る舞うから嫌い」だとすら宣言する)、あらゆるうまくいかないことを「しょうがない」と片付けながら、4人のぎくしゃくした会話劇が続く。


 一方、アルプススタンドの熱血『アルプススタンドのはしの方』を観た教師は、そんな彼ら彼女らに「腹から声を出して応援しろよおおおおおお!」と管を巻く。しかし、彼ら彼女らの耳にそんな言葉は届かない。
「応援したところで結果は変わらないからしょうがない」「ならば応援したってしょうがない」「結果が出なくたってしょうがない」……
 誰だって一度は思ったことがある、そんな思いで、無理やり応援に連れて来させられた愚痴を吐き続ける。しょうがない…しょうがない…しょうがない……

 

 

 そんな彼ら彼女らに変化をもたらすのは、プロのスカウトからも目をつけられている野球部のエース園田に恋心を寄せる優等生女子宮下の「しょうがないって言うのやめて」という一言から。
「頑張ってるのに、周りで見てる人に勝手にしょうがないとか言われたら嫌だと思う」
 淡い恋心からくる発言かどうか。相手の立場に立った想像力かどうか。その両方なのか。とかく周りを諫める。突然の一言に不穏な空気が流れるも、徐々に、徐々に、アルプススタンドのはしの方にいる彼らが、グラウンドの選手たちを応援し始め、次第に腹から声を出し、選手を鼓舞する……エモーショナルに、徐々に、徐々にグラウンドに立つ(しかし映らない)選手たちに声を上げ始める。

 


 突如として、何かが決壊したかのように応援を始める彼ら彼女らに最初は困惑した。甲子園という異様な空間、吹奏楽部が爆音で鳴らすテーマソングに酔ってしまっただけなんじゃないのか?一時のuniteによる興奮で感情的になっているだけなのではないのか?これを感動的な話で片付けていいのか?


 そんな心配は無用なのだ。この映画は団結の「美しさ」から、もっと先に突き抜ける。甘さはない。むしろ、応援の意義を再定義するかのように、物語はある種、残酷に展開する。
 試合が進行し、4点ビハインドの8回から2点差に追いつき、そのまま9回を迎えて二死満塁。当然のごとく、応援の声を絶やさぬアルプススタンド。バッターボックスには前の回に代打でバントを命じられた矢野。彼は決して野球エリートではなかったが、3年間たゆまぬ努力を続けてきた。「しょうがない」と口にすることなく、練習に打ち込み続けてきた。だからこそ、前の回に代打で使われ、決定的な場面で重要な役割を担うことになった……が、彼ら彼女らの声援を置き去るように、矢野は凡退し、試合は決着する。

 

 応援が結果を導かないままに試合が終わるのだ。応援によって、試合結果が好転することはないのだ。

 

 ここで映画が終わる……美しい……と思いきや、スクリーンは、そこから5,6年後の未来のアルプススタンドを映す。4人がまたアルプススタンドに集結するのだ。ただし、今度はプロ野球の試合が行われるアルプススタンドに。
 そこで彼らが応援するのはある一人の登場人物。あのとき、かつて、二死満塁で凡退した矢野だ。打ったボールは……なんとホームラン。「しょうがない」を口癖にせず、努力に打ち込んできたキャラクターが最終的に報われる……といういたって神話的なオチ。に思われるかもしれない。ただ、あそこで描かれているのは、そこに再集結した4人の存在だったのだ。頑張り続ければ日の目を見る。そんなラストの解釈も否定はしない。ただ、あそこで注目すべきは再集結した4人だ。
 「応援」を通じて互いに腹を割り合った4人だ。そのときは一時的な熱狂だったかもしれない。だが、そこで互いに腹を割り合って、声を荒らげ「応援」した4人だ。「応援」という利他主義的な行為が回り回って、個に還元されうるのだ。その瞬間の美しさたるやない。誰かに応援されるよりも、誰かを応援することの方が一般的な人生において、よっぽど多い。ただ、応援し続けることは、応援され続けることと同じくらい価値のあることなのかもしれない。

 

 とかく、私はマスクを水浸しにして劇場をあとにした。

俺の日々 2020年8月前半

内田百閒、吾妻ひでお、目黒孝二、大森望坪内祐三……
魅力を感じる文章の書き手が綴る「日記」が好きだ。そもそも書き手自身に魅力を感じているから日記を読んでも面白いといえば、それまでであるが、「日記」にはふつうの文章とは違った色合いが出る。というわけで、書いてみる。
webコンテンツの潮流には真っ向から逆をいくような内容である。しかし、そもそも収益化だの、えすいーおーだの、読者のためだの……そうしたことを一切考えず、好き勝手気ままに書くことが、このブログの理想的な姿だ。
またこの一連のエントリは、アルコールのせいで日々消えゆく記憶とともに生きる人間の備忘録という意味もある。

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8/7(金)
起床。最低限の仕事を終えた時点で、それ以上やる気にならず、読書。GoTに熱中するあまり読みかけにしてしまっていた◎『三体 黒暗森林』(早川書房)を読みきる。ラストの展開がいい。乱暴な物言いをすると、劉慈欣は理系で偏差値が高いマイケル・ベイとでも例えられるように思えてきた。その後もやる気が出ることはなく、○目黒孝二『笹塚日記』(本の雑誌社)を読む。競馬との距離感の取り方は見習うべき点が多い。夜、オンライン飲み会。カープは若手選手が躍動する素晴らしい試合。未来に希望が持てる。

 

8/8(土)
10時30分起床。
初台のセブンイレブンで○『dancyu』を買う。一特は「夏のおつまみ」。夏の冷菜つまみをさらっとつくれるようになりたい私に最適な特集。
新宿まで出て買い物をしようと思うも、求めるものが見つからず、合羽橋まで。アルミパンと中華鍋を買う。帰宅後、気合を入れた料理。ストレスが発散される。
B社のIさんからメールあり。食事の誘い。ありがたい。

 

8/9(日)
6時起床。△『「バカ」の研究』(亜紀書房)を読了。散歩ついでに笹塚。日用品を買うついでにウェンディーズ。なにかしらのキャンペーンでなにかしらのハンバーガーセットが安くなっていたので、それを頼む。
エルムステークスは「こりゃあ上位人気勢がいかにもうさんくさい」と考えて、アルクトスを本命に推すも惨敗。
夕方、新宿紀伊国屋書店を見回り。『宇宙・肉体・悪魔』(みすず書房)を購入し、シネマート新宿で○『カラーアウトオブスペース』。ようやく観られた。ラブクラフトの映像化としては最も成功しているといって差し支えない出来。とはいえ、けったいな仕上がりであることは否定しがたい。オチの外連味はわかりやすいものの、広くわかりやすいかと言われると首を傾げざるをえない。そんなところ。詳しい感想はこちら。
夜飯は中華。買ったばかりの中華鍋を振り回して涼拌茄子と青椒肉絲、トマトと卵の炒め物をつくる。美味、満足。つい飲みすぎる。

 

8/10(月)
8時起床。宝缶酎ハイ×2飲みながら散歩。帰宅後、シャワーを浴び、仮眠起きたら17時。仕事をするつもりが、3時間も寝てしまった。王将を食べてダラダラ仕事。終わらず。

 

8/11(火)
仕事、オンライン面接。夜、酒飲みながら○『セーラー服と機関銃』を見る。相米慎二は画面構成のキレもさることながら、最も秀でていたのは、もしかすると女性を撮るうまさなんじゃないか(いまの時代には全く合わない製作現場だったことはさておき)。えてして、女性を撮るのがうまい映画監督は傑出した作品をつくりがち。ほら、例えばカラックスとか。

 

8/12(水)
終日仕事。のはずが、昼飯にうどんを食べてそこから『宇宙・肉体・悪魔』(みすず書房)を読みふける。仕事はまったく目処が立たぬまめ夜。今日も中華鍋を振る。酒を飲みながら『本の雑誌 9月号』。一通り読んだ後、Amazonプライムで○『グリーンインフェルノ』。この映画はたしか浅草までプレミア上映を見に行った記憶が……いま見返しても悪趣味全開ですばらしい。明日から四連休だが、仕事以外に主だった予定はなし。

 

8/13(木)
久々の外出。麻布十番のスーパーデリカテッセンで4連休分の食材を購入し、天気が気持ちよかったことを建前に、缶チューハイ4本を消費する。昼から酩酊のまま惰眠を貪って、気づいたら夕方。食事の支度を済ませ、DVDで◎『地球へ2千万マイル』を見る。ハリーハウゼンのつくる特撮のすばらしいことよ! 河出書房新社から出ていた画集の復刊が待たれる(契約の兼ね合いで難しいことはわかる)。 

 

8/14(金)
牛ホホ肉を煮込むも思うような仕上がりにならず。弱火にかけている間、本を読んでしまったことが大きな原因。料理を犠牲にしながら○『宇宙・肉体・悪魔』(みすず書房)を読了。どえらく頭のいい賢人の思考実験というところか。未来に希望が持てる時代だからこそ生まれ得た一冊のように思う。所々ついていけず。
夕方、栗東トレセンで火災のニュース。4頭取り残されているという情報を見かけたが……

 

8/15(土)
栗東トレセンの火災は3時間ほど鎮火に時間がかかり、結果的に4頭の馬が亡くなってしまったそう。未勝利馬の屠殺は看過して、こんなときに途端に感傷的になるのは曲がったセンチメンタルかもしれないけど、道が閉ざされてしまうってのは、なんであれ無念だろう。こんなときまで天邪鬼にはなりたくない。
朝、松屋まで行き、定食(牛皿をとき卵に浸しながら、すき焼きのようにして食べるのが好きなのだ)。その後、高校野球と競馬を行き来しながら仕事。思いの外はやくめどがついたので夕方からの映画チケットを抑えて『アルプススタンドのはしの方』をシネマカリテで観る……つもりが、映画開始3分前に昼寝から目覚める失態。情けないことこの上ない。