ナイトプールなど(クイーンS予想)

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花火、夏祭り、海水浴、その他もろもろ夏の行事にとんと縁がない。

 

子供の頃は「そういうイベントごとに敢えて行かないからね俺は」なんてふかしていたものの、歳を重ねるにつれ、このまま突っ張っているだけではいかんと思い、ようやく花火大会というイベントを経験してみようと計画してみるも今年の隅田川花火大会は生憎の雨。
滅多に着ない貴重な浴衣を濡らすわけにはいかず断念、今年もまた夏らしいことができずに終わってしまった。
せっかくこれまでのひん曲がった信念を改めて、一つずつ夏のイベントを楽しんでいきたいと思い始めていた身としてはなんとも消化不良な結果。
それだけならまだしも、夏のイベントごとを一つも消化できていないなか、『ナイトプール』なる新たな催しが流行しているらしい始末だ。
ナイトプールの流行、そうは言っても去年メディアで散々取り上げられていた『泡パ』みたいなもんで、一部のフィクサー的人物がやれ針小棒大にがなりたててるだけでしょ、なんて思っていたら(毎年夏になると海で出会った男と一夜の関係を楽しんでは咽頭淋病をもらってくる)性に開放的な友人MのLINEのアイコンがナイトプールでのそれに変わっていた。
ちょっと調べてみるとニューオータニやらプリンスやら一流どころのホテルから、スポーツクラブ、遊園地まで。都内では結構な場所でナイトプールが開催されているようだ。
どうやら本当に流行しているらしい。いかにも経済の調子が悪くないときに流行りそうな煌びやかなイベントなだけに、流行から定着に結びつくのかはわからないものの、この爆発力と加速力はハロウィンのそれにも似ていて、このまま定着しても不思議はない。

 

それにしてもナイトプールを開催しているスポットの一つに『としまえん』があることには驚いた。
としまえんのプール、あそこ夏の行楽シーズン以外は魚を放流して毎年俺たちがサーモンやらマスやらのフッキングに勤しむ管理釣り場ですよ。
管理釣り場独特の立ち込めるような匂いもあってさ。もちろんシーズン前に綺麗にはしてるんでしょうけど、なんというか、気持ち的に、ね。
としまえんでナイトプールを楽しむキラキラ女子はきっとそんなことを知らないだろう。
それでいいのだ。なんというか、知らない方がいいこともあるってもんだ。その好例、うん。


自分で書いておいてなんだが、知らない方がいいことは人生において本当に数多い。
交際相手の浮気だとか、昔付き合っていた相手のことだとか、犯罪歴だとか、その他もろもろ。思い当たることがある人も少なくないはず。
それにひきかえ、競馬は知らない方がいいってことがまずない。面白いね。
レースごとに各馬の力関係をつぶさに検証して、馬体まで見てあらゆることを知ろうと努める。それでも動物だから思ったようにはいかず、いつもやきもき。そんな人がこの世に何千万人いることだろうか。
そんな競馬、今週末の重賞クイーンSで本命に推す馬はクロコスミア。
ある程度、知らないことがなくなるように努めて予想したつもりだ。
まずはヤマカツグレースの一つ外に入ったということでスタートから押し上げていくことが必然に変わった。テンの早さはこちらの方が上で先手争いはすんなり制す。上位人気2頭はあからさまに叩き&試走の感が強いので、そのほかの馬からインベタにつけられて脚力を示してる馬を選ぶ、というありがちな選択をした。
前走で逃げのショックを使ってしまったぶん、今回はその反動が気になるものの、トラックバイアス的に不利を受け続けながら惨めな競馬をしたことが無い点も好感。馬体重大きく変わってなきゃいいですね。

 

オチも何もないですが、この馬券当たったら夏の行楽の資金にさせていただきますんで何卒。なんならナイトプールなんか行っちゃったりしますんで。夏の楽しさ教えてもらっちゃったりしますんで。

育ちの差(中京記念予想)

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思わぬところに育ちは表れる。

まさか成人式のスーツの着こなしにこんなにも差が出るとは思ってもいなかった。
いや、ただ単に俺の背が低いから似合ってないんじゃないか、とも察した。だが違うのだ。
俺より身長が10cm低い奴でもビシッとキマってる奴はキマってるし、逆に180cmオーバー・スタイル抜群な奴らの中にもキマってない奴は少なからずいた。
自分の着ていたのが洋服の青山で用意したようなおじさんスーツだったってわけでもない。なんなら粋がってわざわざセミオーダーの仕立て屋に行き、その頃流行っていたDiorみたいな感じでタイト目に仕立ててもらったし、サイジングがおかしいわけではない。なのにこの始末よ。
とにかく周りのキメてる連中と比べた時の俺の格好はなんとも七五三としか言いようがないのだ。
二十歳そこいらの男でスーツを着慣れている人間なんてごく少数だし、何がイケてる奴とイケてない奴を分けてたんだろう。そしてなんで俺は完全にイケてない側だったんだろう。
そんな悩み、というか、モヤモヤした気持ちを抱き続けてたんですよ、うん。

 

その悩みの答えがようやくわかったって話。
最近読んだ本の中で一部女性誌の鉄板ネタとして「代々家族から譲り受けた大切なもの」なるものがあることを知ったのだ。先祖からの財を継承するものとして、そこに挙がるのはジュエリー、ブランド品、着物などなど……。それの男性版がスーツだという。
若いうちに上物を捕まえるには「スーツの着こなしがいい男を選べ」という言葉まで紹介されていた。
理由としては「(ハイクラスな)私たちはお母さん・お婆ちゃんから素敵なものを受け継いだけど、男性の場合なかなか引き継ぐものがない。日常着のスーツだって体型が違うから難しい。そこで彼らはお父さんからスーツの着こなし方を受け継いでいる」のだそう。
な…なるほど……
ちょっと唸らされた。たしかに考えてみたら成人式でイケてた連中は良家の子が多かった気がしなくもない。何よりの証左が俺の家が疑いようもない「下の上」家庭だったからだ。

 

わかる。わかるが、自分の育ちが悪いと言われてるような、なんともイケズな文章を目にしてしまったな、うん。
劣等感からそう思うだけだと思われてもそういうわけではないのだが、そう受け止められても仕方あるまい(指示代名詞の多い悪文…)。
とはいえハイクラスへの憧れなんて本当に皆無で、後楽園の端っこで関係性もあやふやなツレとパック酒を飲みながらマークシートをひたむきに塗るおじさんの方が憧れの対象だ。

かといって素敵なものへの欲求がないわけでもない。しかし毎月記帳する通帳を眺めては己の収入の低さに肩を落としてばかりの毎日で現実はよくわかっている。
そんな俺に残された選択肢は安いものをたくさん買うか、素敵なもの(多くの場合値がはる)を少量買うかのいずれかで、そうした生活を続けていくしかないのだろう。
何度も書くようだが、決してそうした生活が嫌だというわけではない。むしろ楽しい。
いや、でも、うーん、ハイクラスに生まれて、家とか買ってもらえたら嬉しいなあ…いやあ、でも、そんなに憧れてる、わけではないけど……あ…選択肢はもうひとつあった。
素敵なものを買うために大きな馬券を的中させるってことだ。

 

というわけで、今週末開催される重賞、中京記念で本命の印を落とす馬はマイネルアウラートに決めた。
中京記念は基本的に4角10番手程度につけて34秒台の上がりを繰り出す馬が馬券になるレース。今年もなんともそんな展開を狙いそうなメンバーが揃っている。が、ここにきての雨。
休み明けでストレス疲労から解放されたアウラートが35-35でラップをまとめて馬券内に流れ込む。
去年の中京記念の不利が適度なブラインドになってくれそうなのも好材料。いわゆる「中京記念走りまっせー」タイプではないし、夏負けする馬に見える馬柱。買い。

 

思えばマイネルの馬も決して「ハイクラス」とは言えない。
そんな中流家庭代表のマイネル中流家庭の俺に馬券をプレゼント。
そういうわけでよろしく頼む。
少々雑ですがそんな感じで。

指原莉乃さん(函館記念予想)

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HKT48の指原莉乃(24)が、番組ロケで初めてクラブを訪れたがその雰囲気に号泣してしまい、企画が中止になっていたことが明らかになった。
「初めてのクラブで酔っぱらいもたくさんいて、話しかけられて、人見知りなんで怖かったんでしょうね。泣いてしまいまして……」と、企画が中止になったことを明かした。


毎日毎日ヒアリ松居一代のニュースばかりを往復ビンタ状態で見せられているせいか、こんな芸能ニュースですら興味深く思えてくるから人間の関心とは不思議なものである。
メディアがやる気を出せば、人の関心なんていかようにも操作できそう。そう今の中国みたいにさ。
いや、そんな政治的な話が書きたいんじゃない。

 

クラブに入って泣いてしまう人がいるという事実に結構驚かされた。
自分自身、今となってはとんと縁遠くなってしまったけど一時期は暇さえあればクラブに行っていただけに、クラブが嫌いな人間が一定数いて、クラブという場所がいかに偏見にさらされている空間かってことはわかってるつもりだ。
知人の中には、ロハでコーマンかます事を最終目標にする男女ばかりが集まるだだっ広い暗い部屋みたいのを想像してる人も少なくない。

 

ただ、そんな、いわゆる“パリピ”と呼ばれるような、EDMが流れたら粗悪でもただただ踊ってしまう(まるで、秒あたり二度の強拍があって長三度の和音が多いから歓喜を連想させる構成だ、みたいに機械的に音楽を捉えているような)人を集めるクラブばかりじゃないんだよ、指原さん。
自分が通っていたクラブは10畳くらいで、形容するとしたら紛れもなく“部屋”だった。その部屋にバーカウンターとステージとDJブースとダンスホール、談笑するためのソファーを詰め込んでるみたいな場所。ロハでコーマンかました話も聞いたことない。いや、僕が知らないだけでたくさんあったのかもしれないけど。でもあの見知った顔ばかりのクラブでそこまで持っていくなんて、実家で一度も母親にオナニーを気づかれず成人する程度に難しいことは間違いない。ベラ噛んでる人すら見たことない。あったとしても、その場で知り合った男女が手を繋いでハグしてるくらいの、そんなもんだ。どうだ!健全だろ!指原さん!
いやまあ、そんな部屋で、耳でなく肌を通して聴く音楽はそれはもう最高の一言で、グラムあたり4,000円のブースターまで加えたら、至福という言葉でも表せないほどの幸福がそこにあった。あ、そういうのが嫌なのかな。でも、今はどのクラブもクリーンだよ指原さん!

 

届くことのないプレゼンを続けているものの、そういえば僕も最初はクラブが苦手だった。
落ち着かないし、どう振る舞っていればいいのかわからない。音楽聴くのはいいんだけどトイレも汚いし。そんなわけで、デビューしてから何度かはヒシアマゾンばりに後方待機を決め込みながら、周りの楽しんでいる人を眺めて「この人たち楽しそうだなあ」なんて、思ってばかりだった。
だけど、ある日友達がナンパしてるのを見て酔いにまかせて突っ込んでみたら、フロアで一緒に踊りながら酒飲めたんだよな。朝まで一緒に踊ってさ、クラブ出た時の日の出は富士山で見たそれより気持ちよかったし、一緒に食べた道玄坂のラーメン屋は味は不味かったけどロブションよりも美味かったんだよな。
本格的にクラブにハマったのはそれ以来。元々そういう音楽を嗜好してたことも手伝ってか、わざわざイラレでフェイクのIDをつくったりしてさ。
通いつめてきたけど、いい思い出なんて本当にわずかなもので、合法非合法問わずぐちゃぐちゃに酔っ払ってしまった情けない話の方が多いんだけど。それが楽しかったのかもしれない。
彼女へのプレゼンは途中で途切れちゃったけど、一歩踏み出さなければ味わえない楽しみが確実にそこにはあったんだよ、多分。そういうことが書きたかった。


さて、毎週通う場所が池袋のクラブから後楽園のWINSに変わった僕が今週末の函館記念で本命に推す馬はカムフィー。
洋芝実績は証明済み。今回は前に行きたい馬が揃って例年以上にタフなレースになりそうなのもスタミナ寄りのカムフィーにとっては好条件。典型的なダンスインザダーク産駒らしい挙動を示しているだけに、加齢しようと飽きさせなければ走るはず。それだけにレース条件&質替わりもプラス材料と取った。しかもここにきて恵みの雨。どんどんカムフィーに追い風が吹いてきた。想定最低人気なだけに振り回して勝負したいところ。
いやはや、1600m戦から3600m戦までありとあらゆるコースに挑戦してきた本馬が重賞を勝ち取る。一歩踏み出し続けてきた者にだけ与えられる栄冠が輝くんだ、うん。


それにしてもクラブに入るや泣いてしまうなんて「なんだかよくわからないけど怖い人が集まってる危ない場所」みたいなイメージを無意識的に抱えてるんですかね。
そこを一歩踏み越えたら結構楽しい世界が待ってると思うんだよな、ほんと。もちろんアレルギー的に無理な場合もあるようだから強制するわけじゃないけど。
同じAKBグループの秋元才加をなんかのパーティーで見かけた時はすげー綺麗でかっこよかったぞ、うん。

罵詈雑言(七夕賞予想)

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書店の辞典棚を見回してみると日本語の多様性に気づかされることしきり。国語辞典だけでも数十種類あり、慣用表現や類語、その他の辞典まで含めると、一生かけて日本語の1割も習得できないような気すらしてくる。
感情表現、舞台設定、官能小説用語表現、人物表現、感覚表現、死語……
これらも全て「辞典」として書籍化しているテーマ。中にはエッセイ風味のおおよそ辞典とは呼びづらいものもあるものの、そんなめくるめく辞典の世界から一冊を取り上げたい。『罵詈雑言辞典』という本がある。

「世の中に敬語があふれすぎている」
話し言葉が丁寧になり過ぎた」
そもそも日本語は罵倒語に乏しい。特に関東圏において、関西はやや豊富だが、それでも他国語と較べれば貧困だという。
馬鹿・阿呆・田舎っぺ・ぐうたら・素寒貧……たしかに罵詈雑言を連想してみても、なかなかすんなり、とは出てこない。
よく使われる罵倒語から耳慣れない、あるいは初めて聞く罵倒語まで。1200語もの罵詈雑言が収録されているというのだから(私の場合口の悪さに拍車をかけぬよう、なるべく読まないようにしているが)労してつくられた一冊であることは間違いない。元々は25年ほど前に初版が発行され、以降絶版になっていた本書。先月の9日に新装版と形を変えて復刊する運びとなったので、まあ宣伝気分でここまで書いてみましたよっと。


さて政治家が秘書に対して「このハゲー!」と喚く時代である。今回の復刊は社会を示唆していると言えなくもない気が。
それにしても「このハゲー!」でおなじみ豊田議員をめぐる報道には、ただただ違和感が募る。そんなことないですか?
19時からのバラエティ番組ではハゲをネタに笑いを取りながら、14時からのワイドショーではハゲとは何事か…と腕組みして批判。
いやいや、人の見た目を侮蔑するという、最低レベルの罵詈雑言をここまでカジュアルに仕立て上げたのは、バラエティ番組のあなた方でしょうよ。今さら真面目な面して「見た目に関することは言っちゃダメですよね」って一体なんのご冗談ですか。
見た目を侮蔑する言葉として「ハゲ」だけは言ってもオッケーなものとして扱ってきた張本人が、何かあったらこれですよ。てめえはお調子者の学級委員か。
誤解を防ぐために付け足すと「ハゲなんて人に言うもんじゃない!」と説教したいわけじゃない。むしろその逆。
たしかに人を差別するのはよろしくないが、問題は罵語そのものを差別語だとして排除する見当違いさ。杓子定規なポリティカルコレクトネスを盾にして、あらゆるものを制限して監視して、どんどん生きづらくなっていくのが嫌でさ。
本当にダメなのは、特定の人を罵る態度や精神構造やそれを助長する欺瞞に満ちた振る舞いであって、罵語にあらぬ罪を被せても仕方ないっすよ。
そうそう罵語に罪はない。競馬場にいるとよく気づかされるが、言い回しひとつで罵倒は豊かな日本語表現につながるし、筋の通った流麗な罵詈雑言は聞いていて気持ちがいいもので…って話が逸れそうなんで競馬の話に。


今週末開催されるはハンデ重賞の七夕賞。本命に推す馬はバーディーイーグルに決まっている。
前走で差しに回して激走したものの、そこはリズム上げてきてるブライアンズタイム。帳消し、むしろプラス。延長だし素直に先行の位置取りショック、なんてったって53kg。素直にゲート出れば中団前目にはつけられるでしょう。ペースはそこそこ流れるだろうし、道中は脚をためることに専念しつつ、夏に向けて取り戻してきた破壊力で直線ズドン。そして言わずもがなニジンスキー内包は七夕賞の特注血統。それで9番人気ですか。全力でマークシートを塗らせていただきます。

「このハゲ!何が東の豊じゃ!中枠で控えさすな言いよろうが!中団で追走させりゃよかろうもんを!ほんまにカバチタレが!」
こんな罵詈雑言が思わず口をついて出るようなレースにならないことを期待しています……

 

環境から飛び出して(スパーキングレディーカップ予想)

f:id:BxKxN:20170706120844j:imageAmazonが六本木にポップアップストアを開店するというニュースを目にした。
プライム会員の魅力を伝えることが主な目的で、商品販売は行わないとのことだが、日本でも実店舗を展開していきたいという魂胆は透けて見えているし、そのための布石を兼ねているのだろう。
既にアメリカでは書店をオープンさせて、経営も軌道に乗っているわけで、日本全国各地にAmazon書店が遍在する未来もそう遠くはなさそうだが、果たしてそれは良いことなのか悪いことなのか。
税金を納めているのかどうかも不明瞭な会社に金を落とすなんてけしからん!
そんな話をしたいわけではない。
むしろ歓迎大歓迎。実店舗を持つこと大事。ウェルカムAmazon書店。
ただでさえ、ここ20年弱で書店の数は半分に減ってしまっているなか、書店が1店舗でも増えるのは単純に好ましい。ビジネスモデルも従来の書店とは違うわけで住み分けもできる。いいことづくし。

なんてったって、本は「どんな時に」「どこで買った」かも大事な要素。なんなら、そこまで含めることこそが読書体験だと考えているだけに、書店が存在するということはとても大切なのだ。
ワンクリックで読みたい本が手元に届く便利さも否定しないが、読書体験は購入する時点から始まっている、うん。


というわけで今回の更新は「どんな時に」「どこで買った」かを含めた読書の話からしていきたい。
あれは5,6年前の夏。
初めてのぞき部屋に行った帰りのことだった。
まだ歌舞伎町のコマ劇跡地に高層ビルが建つ前の暑い日、のぞき部屋 マドンナに入店した。
昭和から続いていそうなギラギラ感とキナ臭さが予てから気になっていたのだ。
金はないが、いかがわしい気持ちはある。そんな標準的若者が薄暗ーい階段を下りていくと、おじさん店員から2000円を支払うよう求められる。なんの話もなしに金からかよ…なんて思いながらも、財布の中から5000円札を取り出すと、お釣りの札を何度も数えながら
「個室に入って15分女の子のショーが鑑賞できます。撮影できるものは全て預けてください。破られた場合は罰金として50万円いただきますので必ず預けてくださいね。はい3000万円」
と、機械的に説明された。RPGのモブキャラばりの要件しか伝えてこない店員、そしてiPhoneまで預けなければいけないことに、なんだかイヤな気持ちになりながらもすぐさま個室に通された。後戻りはできない。
部屋の中にはティッシュとゴミ箱があった。広さは漫画喫茶の個室を二回り小さくしたほど。ゴミ箱の中には前任者のブツが残されており、思わず気圧されそうになるものの、ショーはこれから。楽しんでいこう。
好奇心で胸を躍らせていると、なぜかハードロックが流れ始める。すると間も無く嬢が登場。
30代半ばのお姉さまが不器用に腰をくねらせながらマジックミラー越しに挑発してくる。その後は各個室の前まで移動し、股ぐらをこねくり回して見せつけてくれる。
その間にBGMのハードロックは録音された喘ぎ声に何故か切り替わり、
「なるほど……このおばさんを見ながら中でいたせということか……」と察したものの、全く愚息は反応しない。
「嬢の足首に彫られた蠍のタトゥー、ガタガタだなあ……」などと考えていると、突然後ろから声をかけられた。
「オプションどうしますか?」
お、そんなサービスがあるんですね。
値段を聞いてみると、手でしてもらうのに2000円、口でしてもらうのに3000円。
いやー、声をかけてきた人もなかなかのもので……なんて断ろうかななんて考えている一方で踊り子さんはどんどんヒートアップしている。
BGMは録音の喘ぎ声から、これまた録音の「イクッ!…イクッ……!」というサウンドに変わり……
っておいおい、これじゃただの風俗レポになってしまう。


話を戻そう。
そう、結局自分は15分のショーの間中、死んだ魚のような目をして過ごしたのだ。ショーが終わり、やるせない気分に陥った自分が向かった先が新宿紀伊国屋だった。
オプションを一切使用しなかったことで浮いたお金を握りしめ、妙に達観したような気持ちで買った本は『もういちど読む山川世界史』だった。
普段ならまず手に取らない本を購入している事から、その時の心中は今でもうかがい知れる。辛かったろうな、うん。
あの不思議な、忌まわしき出来事は忘れよう。
そう考えて歌舞伎町から北西に向かって歩き、大久保の公園にたどり着いた。
さっきまでは聞こえてこなかったセミのうるさい声がどこか心地よく、真夏の日差しはクッキリと網膜に焼き付けられたのぞき部屋の映像を焦がし取ってくれそうだった。


ベンチに腰を落とし、買ったばかりの本を読み進めたのだが、夕方になる頃には全てを読み終えた。よほど本の世界に逃げ込みたかったということか。
没入していたのだろう。この時に読んだ事象や言葉のいくつかはいまだに頭の中に残っている。
ここでは記憶している言葉の中で、荘子の「惠蛄(けいこ)春秋を知らず」という言葉を紹介したい。惠蛄とセミのことで、簡単に口語訳すれば「セミは春秋を知らない」という言葉だ。
セミは長い間、土の中で過ごし、夏の間だけ外に出て、夏のうちに死んでしまう。
そのため、セミは春や秋という季節を知らない。
よって、春も、秋も、冬も知らないセミにとって、夏の暑さが普通であるし、夏の情景こそがすべて。
翻って、夏しか知らないセミは夏自体を知らないというわけだ。
これを人間の人生に置き換えれば、いま自分のいる環境だけにとらわれている人は、その環境が良い環境なのか、はたまた悪い環境なのか、それすらも分からないということ。何事も外に向かって挑戦することで学びを得られるんですよ、という意味なんだそうだ。
なるほど、のぞき部屋での一件も無駄なことではなかったんだな……荘子に励まされたような気持ちになった。
なんだか伝わりづらい組み立てになってしまったものの、読書体験にとって「どんな時に」「どこで買ったか」は重要な要素なわけですよ、うん。


さて、長々と書き連ねた先にたどり着くのは競馬の予想。
週中に開催されるダートグレード競走スパーキングレディーカップで本命に推す馬はアンジュデジールに決めた。
2014世代のPOG指名馬だったぶん贔屓目に見ている面もあるものの、適距離戻りで短縮逆ショッカー気味に位置取り取れそうなのは好材料
イン2からトーコーヴィーナスをお掃除して押し切る展開が望ましいですね。もちろん今開催の川崎の傾向から逃げもベター。
中央1000万ダートで勝てるだけのタイムを持っていながらして斤量は52キロで、サクラフローラとその差3キロとなると期待は膨らむ。
あとは馬場。レース開始時までにどれくらい乾くか、内から乾くのか、外から乾くのか次第ではあるものの、さすがにパサパサに乾いた方向のタフな路面にはならないだろう、多少人気していても本命視で。

「惠蛄春秋を知らず」ってわけではないものの、この馬もかつては芝でしか走ったことがなかったが、3走前にダートでの走りを知った。ようやく見つけた自分の輝ける環境。ディープのダート馬…いいイメージは湧かないものの、新たな環境で高みを目指す走り、期待してます。