『トゥ・ヘル』を観た

年が明けてからというもの、隙あらば未体験ゾーンの映画祭2019関連作品を観る生活が続いているのですが、今日観てきた『トゥ・ヘル』についてちょっと一家言あるので、連日のブログ更新です。観終わって!即!書く!

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亡き妻の魂によって地獄へと導かれていく男の愛と狂気を熱演したリベンジスリラー。トラック運転手のジョーは、妻メアリーと幼い娘の事故死から立ち直れずにいた。そんなある日、生者と死者の世界を行き来できる女性ジュリーと出会い、バイク事故で昏睡状態に陥った彼女の娘ビリーを救う手伝いをすることに。ビリーは無事目を覚ましたものの、なんと彼女の身体にはジョーの妻メアリーの魂が乗り移っていた。死者の世界から戻ってきたメアリーに振り回されるジョーとジュリーだったが…

というのが、公式サイトのあらすじを引いたもの。文章だけ追うと、なんやようわからんが、妻娘を亡くした男が、事故で生死の淵をさまよう母娘の娘を助ける呪術的手伝いをしたところ、娘は生き返り、その母と良い関係になるのだが、(母娘の)娘にかつて亡くした妻の魂が乗り移っていて…… という、まさしく字面だけではようわからん通りの物語なのだ。


(ウェルメイドであることが想定されて)80点を期待していた作品が60点だった時には大きく落胆するが、大して期待もせず20点くらいだろうと思っていた映画が50点だった時には大いに満足する。映画ファンの悲しい性であるが、今作『トゥ・ヘル』は20点くらいだろうと思っていたら、90点を叩き出してきやがった。そんなB級映画であった。怪作。間違いない。


私がやけに気になったのは、過去の自分の失敗を引きずり続ける主人公ニコラスケイジの姿だ。上映中終始思うことは、哀しみを背負う男に対して抱く「辛え!しかしお前は何も間違ってない!」の気持ちである。目の前にいる女が昨日までセックスしていた相手の娘の姿で、かつての自分の嫁の魂が宿った人間とはいったい何事か。深く身体を求めるが、その女の身体はかつて愛した女の身体ではないのだ。なんとも哀しい。それでいて、昨日までセックスしていた母娘の母は昨日同様に男を求める。そんなセックスシーンは誰もが自分事に引き寄せる強さがある。こちとら気もそぞろな状態でしているセックスにも関わらず、先方は(それに気づいてかそうでないか)やけに積極的だった時の悲哀たるや! 誰もがしたことがあってされたこともあるそれ! なんとも今作は異様な設定で描かれる哀しい男の物語なのだ……


「マチエール」という言葉は、映画について語るうえで適当な言葉ではないのかもしれないが、終盤2組の男女が相対するシーンや「まるで凱旋門のようだ!」という言葉から始まる、詩を叫びながら行為に及ぶ異様なセックスシーンは映画の生々しさが実によく現れた傑出の映像で、あの絵を見るためだけにまたこの作品を観たいと思わせる強さと可笑しさがある。悪魔の毒々モンスターしかりトレイン・スポッティングしかり、なんとも私は哀しみに満ちた男の物語が好きなのだ。哀しい男の物語なのだ……


2019年1月18日現在、国内の映画レビューは1.0が立ち並んでいるが、断じて否!声を大にして魅力を叫びたい!怪作!上映形態を鑑みると劇場で観ることのできる人は限られるだろうが、だからこそ観ることのできる人は劇場で観るべきである。いやー怪作。


映画関連のエントリでいうと『マンディ 地獄のロード・ウォーリアー』を観た - 放談リハビリテーションに続いて2回連続のニコラス・ケイジ主演作品に関するエントリでしたね。特に意識しているわけではないものの、何か惹かれるものがあるんでしょうか。なんというか、一時期のダニー・トレホのようですね、ニコラス・ケイジアメリカのダメジジイ感も含めて。素晴らしいことだと思います。怪作です。そんなところです。