ああ、またこれか(安田記念予想)

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忘れられないんだよ。しょうもない話だけど俺にとっては忘れられないんだよ。中学一年のたしか冬、広島から北九州まで青春18きっぷで友達三人と鈍行で旅行してさ。スペースワールドの中にあったホテルにチェックインして、ひとしきり遊んで、夜はるるぶで一番デカく紹介されてた豚骨ラーメン屋に行ってさ。あ、スペースワールドってのは、ザ・地方都市って感じの土地の安さ故の豪華さが売りだったテーマパークで。名前の通り宇宙をテーマにした施設でさ。降下角度がキツいジェットコースター「タイタン」とワンループのジェットコースター「ヴィーナス」が売りでさ、まあ俺は宇宙船探訪型お化け屋敷「エイリアンパニック」ってのが好きだったんだけど。今思えば俺はそんな歳の頃からSFが好きだったのか、まさしく三つ子の魂百までってとこか。ってまあ、それより何よりラーメン屋からホテルの帰り道にさ、線路沿いを友達と叫びながら走ったりなんかしちゃって。途中ポン中としか思えないおじさんに怒られたりなんかしちゃって。今でもその時の光景は瞼の裏に焼き付いててさ。「ちょいこれ青春じゃーん」なんて言っておどけてたけど、あれはたしかに青春としか形容できない何かだったね、うん。


忘れられないんだよ。しょうもない話だけど俺にとっては忘れられないんだよ。そんな、スタンドバイミー風味の旅行から10年ちょっとが経った頃の話でさ。当時あれだけ仲が良かった連中とも交流がほとんど無くなってて。まあ学生時代、特に1年の頃に知り合った連中と疎遠になるなんて、よくある話じゃないっすか。それぞれがしみったれた大人になってさ。そんな頃だったんだよね。スペースワールドが閉園するって噂が流れ始めたのが。俺はわざわざ当時の連れ合いに連絡をとったよ。結局、集まることはかなわなかったんだけど。それぞれがまあ仕事に忙しくなるような頃でもあったし、まだ閉園が確定するってわけでもなかったし。まあ、しょうがないよな…… なんて思ってたよ。そうしたら、その年の年末に閉園を知らせる公式ニュースが飛びこんできてさ。俺はわざわざ当時の連れ合いに連絡をとったよ。2回目の。そしたら、みんな思うところあったのかわかんないけど、前向きに検討してくれて。それで「6月頃に行こうか」ってな具合に話がまとまったんだけど、直前になって、結局取りやめになっちゃって。「ああ、またこれか」なんて、それからもうそいつらとは会うこともなくなっちゃってさ。いや、ほんとしょうもない話なんだけど。


忘れられないんだよ。しょうもない話だけど俺にとっては忘れられないんだよ。スペースワールド閉園の噂を聞きつけた頃に開催された安田記念ロゴタイプが穴を開けて勝って。スペースワールド再訪を控えた2017年目6月の安田記念ロゴタイプがまた下馬評を覆して。社会に出てからあの頃の連れ合いと連絡をとるときはいつも馬券で負けてる時でさ。モーリスとダノンシャークに突っ込んで負けて、エアスピネルヤングマンパワーに突っ込んで負けて。それであいつらもつれない感じでさ。梅雨入りしかけとも重なってなんかネガになっちゃって。信じてたものが裏切られるというか、別にそんな大げさに受け止めてるってわけじゃないんだけど。「ああ、またこれか」ってのがプライベートでも競馬でも悪い意味で続く。それが俺にとっての安田記念のイメージでさ。


今年もそんな安田記念が開催されるってわけだけど、スペースワールドに一緒に行った友達のうち1人から久々に連絡が届いて。結婚するとか言っててさ。結婚式に来てほしいなんて言ってんの。なんか、これまでの安田記念の時期の悪い流れが断ち切れそうな気がしてきて。喜ばしくない記憶を都合よく忘れるためにも、なんならご祝儀を稼ぐためにも本命馬の快走を祈るね、俺は。

「ああ、またこれか」が悪い方向に転がってばかりだったけど、今年は「またこれか」を良い方向に転がしてみせる。ってなわけで安田記念。リピーター。本命モズアスコット。

月末作者コメント:2019年5月

ブログを更新する。しかし、翌日には何を書いたかもう忘れている……。そんな繰り返しに、終止符を打ちたいのねん! そう考えた私が自分自身の読み返しを兼ねて、子供の頃に好きだった『浦安鉄筋家族』の巻末作者コメントの真似事をしてみようと思った次第です。あれ、好きだったんすよね。という試みを先月から始めておりました。今月も引き続き振り返ってみることにするのねん!

 

文中に何回「マーチンゲール」って書いてるんだ…悪文

 

 オチの段は割りと気に入っている。“ことによると(ドストエフスキーの小説でやたらと目にする接続詞)、100円が50万円に化けるような買い目も存在する(ドストエフスキーが博打狂いだったことまで含めたオマージュです念のため)馬券である。”から始まる段。

 

やたらと悪者にされることの多いカープファンゆえの忸怩たる思い…カープが連敗している時には「カープファンが問題を起こしてる」的なツイートをほとんど目にせず、連勝している時はそういうツイートを目にすることが増える謎。

 

著名人の訃報が本当に続いてますね。

 

今月わりと読んでもらったエントリ。口語で書くと力の抜けた文章になる。当たり前か。

 

こ…これは力に入った文章……なんというか“運とはいったい”みたいなことは今後考え続けたいテーマのひとつであります。

 

多くの人にとってどうでもいいかもしれないけれど、自分にとってはかなり衝撃的だったオチの展開。感謝感激雨あられってな気持ちでした。

 

なんて書くのが楽なんだ…… 今月はブログ自体をなかなか更新しないでいましたが、このテーマ来月もまたやってみたいところ、そんな感じなのねん!今月もよろしくお願いしますなのねん!

【番外編】ダービーデー / 東京競馬場に捨て去られたハズレ馬券を観察する【スピンオフ】

文春オンライン様にてこちらの記事が公開されました。「ダービーデー」当日東京競馬場に捨て去られた「ハズレ馬券」を観察してみると……という内容であります。手前味噌ですが、ニヤッとクスッとしながら読んでいただけるのではないかな、と。ご高覧よろしくお願いします。

っと!はい!ここからは番外編!スピンオフ!適当な雑文とともに、文春オンライン上では紹介しなかった馬券について、つらつらと書いていこうと思います〜!(やや雑な写真でありますが、ご容赦ください!)

遠方からダービーに集う競馬ファン

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競馬場に捨て去られている馬券はなにも当日に購入されたものばかりではないんですよね。以前購入したレースのハズレ馬券を競馬場まで持参し、券売機に“一応”通し、ハズレを再確認してから破棄する層が一定数いらっしゃるようでして。この馬券もそんな慎重な人によって捨てられたであろうもの。馬券左下にWINS石和という印字。石和ってどこ?! と不勉強な私は即座にハイパーインターネットサーチ(Google検索)をしました。山梨だそうです。ダービーですもんね。そりゃ遠方から人が集いますよね。改めて認識させられた次第です。

三強を信じて

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サートゥルナーリア・ヴェロックス・ダノンキングリー。案の定多かったこの組み合わせ。購入金額もその他の組み合わせとは段違いです。なんともやるせない。一筋縄ではいかない博奕の魅力が漂ってくるようでもあります。

ロジャーバローズは拾ったのにな……

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三強の馬券が多く買われていた……のに、三連単は19万円。「配当渋いなあ」なんて声が色んなところから聞こえてきて自分もウンウンと頷いていたのですが、寸手のところまで来ている馬券はいくつもあったんですよね。ロジャーバローズ…意外と買われているんですね。いやあ本当に競馬ファンうまいですねえ。いや、ここで紹介している馬券はハズレ馬券に違いないんですけど。それでも「うまいなあ」と唸ってしまう馬券であります。

結果は果たして……

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この馬券群は恐らく同じ人が購入したと考えられるもの。いやはやうまい。というか、この人多分当たってるんじゃないかな?発券番号にヌケがあるというわけではないので、確信はできないものの、そんな気がします。これでハズレてたとしたら…… 想像するだけでウッとなってしまいますわ。


と、そんなところでしょうか!

こんな感じで雑に〆ようかと思っていたのですが、Twitterを通じてリアクションくださった方の中にびっくり仰天のものがありましたので、そのやりとりを紹介して、〆に代えようかと思います。

 


いや〜、こんな風に紹介してしまうと、この方におべっかを使っているようでもあるし、ドラマチックにしたいがために感傷に浸っているようでもあるし、読んでくれる1人ひとりには常に平等に謝意を持っているわけでありますが、ちょっと感激してしまったので。自分も後世にそんな風に感じてもらえるような何かができればいいな…… と、分不相応に思った次第であります。

運・運命(日本ダービー予想)

古代ギリシア人は<人生に影響を与えつつも人知を超えた、計り知れない働き>というものに強い感受性を持ち、また、それを多彩な仕方で表現してきた。

現在まで伝え継がれてきたギリシア神話イリアス』の中にもその一端が見てとれる。

全世界は三つに分割され、三兄弟が各々それぞれの権能を割り当てられた。くじを引いて私は灰色の海にいついつまでも住むことになり、ハデスは暗々たる闇の世界を、ゼウスは高天と雲の漂う広大な天空を得た。そのほかに大地と高峰オリュンポスとは、我ら三神に共通のものとなった。されば私はゼウスの思い通りに生きるつもりはさらさらない、彼がいかに強力であろうとも、三分の一の持ち分に甘んじて、おとなしくしておればよいのだ。(『イリアス』15.189-196)

古代ギリシアの最も強大な神々であるゼウス、ポセイドン、ハデスの三兄弟が、自分たちの領地を定めるのにくじ引きを行った神話において、その次第をポセイドンが語る場面を引用した。

ここから読んでとれるのは、くじ引きという行為は神々であっても、恣意的に望むくじを引くことはできない、つまり、原理的な公正さを持っているということ。と、同時にくじ引きという公正で平等な方法は、結果が平等であることまでは保証しないということである。

そこで続けて見えてくるのは、くじ引きに象徴される、人間にはコントロールできない超越的な作用を、必ずしも単なる偶然の産物とは捉えず、むしろそれを運命として、すなわち必然の作用として、当時のギリシア人が受け止めていたということだ。なにもギリシア人に限った話ではなく、木片や石を投げることで、物事を決め、吉兆を判断してきた歴史は日本にだってある。

偶然に任せる方法によって、かえって必然的な運命を見定めようとする儀式は、世界中の文明・文化で広く見受けられる。あらゆる場所で人類は、運で運命を定めてきたのだ。

 

結果は“運”に左右される“偶然”で、その後の“運命”に“必然”を見る。そんな話を長々とタイプしたのは、週末に開催される祭典・日本ダービーの話につなげるためでして。

日本ダービーは(今さら書くほどでもないほどに有名な言葉だが)“最も運のいい馬が勝つ”という格言を有するレースであり、ギリシア神話を照らし合わせると、最も運のいい馬として見事にダービーを勝った馬は、ダービー馬という称号を得て馬生を全うする運命を背負う、と言える。

そんな運命に相応しいと考え、本命の印をつけたのはサートゥルナーリア。馬券の妙味を考えると、他の馬に本命を打ちたくなるところではあるが、能力の高さに疑いの余地はなく、調教過程も万全、隙のないレースぶりも好感で…… そして何よりも、ダービーで当馬に騎乗を予定していたルメールが騎乗停止処分を受け、世代最強馬の背中に跨ることになったレーン騎手(に「伝統あるレースをポッと出の騎手に勝たせるわけにはいかない」という批判も聞こえてくる)が、“最も運のいい……”という格言のある日本ダービーにおける勝利ジョッキーに相応しい、と考えたことが、本命印の大きな理由かもしれない。彼の運がどんな運命を定めているのか。本命の印を打ってしっかりと見届けたいのだ。

人間にとって世界の多くの部分は見通すこともコントロールすることもできず、運、運命にどうしても翻弄される。しかし、それでも、ただ成り行きに従って流れるのではなく、ときに気高く賢い仕方で、ときに弱く馬鹿げた仕方で、もがきながら対処し続けようとする姿に、人間らしさが立ち現れる。

これまたギリシアの詩人であり『オイディプス王』を著したソポクレスの言葉だが、まるで毎週のように競馬を続ける私たちに向けられた言葉のように読めてしまう。

ダービーが終わると新馬戦。競馬界における新たな一年が始まるわけで。まだ気が早いですが、次の一年も「人間らしく」競馬を楽しみたい所存であります。

 

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

 

ギリシア神話に関する話はこの内容をメモしていたノートから切って貼ってしたもので、それ自体に明るくないので間違ってる箇所もあるかもしれません!ご容赦!西洋哲学史としても面白かったので、ご興味ある方は是非〜。


(追記)

本日、葵ステークスのアウィルアウェイにお金を賭し、ダービーの資金を増やそうという作戦を実行します。

さながら運試し。この運がどう転ぶか。その結果によってダービーに賭けられる金額が決まるという運命ってわけです。

競馬における「オイ!オイ!」問題について

こんなツイートが自分のTLに流れ込んできた。

またこの話か。もう飽き飽きですよ。

このアカウントを運営してる人がどうこうっていうつもりは全くないですけど、競馬初心者を抜け出したあたりでこういうことを声高に叫ぶ人って少なくないですよね。それでいて、揃いも揃って「ズバリ!オイオイはやめた方がいいでしょう!」って正論を持論のように言い放って悦に浸って。君たちはなんだ、丸尾くんか。って打ち込んだあたりで“丸尾くんってあの丸尾末広をつい連想してしまうなーイメージと全然違うのになー”と思っていたら、丸尾くんという名前は実際に丸尾末広をもじって名付けられたらしいです。丸尾くんのフルネームは丸尾末男っていうそうで。ひえー。知らなんだ。小学校の頃、あれだけSFCの『ちびまる子ちゃん めざせ!南のアイランド!』を散々やりこんでたっていうのに知らなんだ。というか、なんでだ、それだけ狂気的なキャラクターってことか。


まあ、そんなよもやま話はさておき、自分の場合、競馬場で叫ぶのはお好きにどうぞの立場で、もうあれですよ。レース前の昂りは「ああ出来たら当たってほしいもんだわねえ」って感じで、ほぼ的中間違いなしの隊列でも「あらこれはいいわねえ」って感じで、入線して的中が確定してからも「ああよかったわねえ」って感じで。自分のエラーを帳消しにするホームランを打ったあとの前田智徳みたいな感じで。求道者みたいな心境でレースを見てますからね。求道者なんて書いておきながら、まあほとんど馬券はハズれるんですけど。そうして道を求めていく過程が永遠に続くからこそ競馬が楽しいんですけどね、はい。


そもそも、ダービーを勝ち切るような馬は超越した精神性を持ってると思うんで、オイオイくらいで怯んだりしないし、オイオイに怯みそうだと思うなら、自分の予想から外せばいいだけで。そこまで含めて予想することが一興なんじゃないですかね。陣営もそういう“数多の情念が渦巻く”スタンドだってことは重々承知のうえでレースに送り出してるわけですから。自分もオイオイについては「盛り上がる気持ちはわかるけど品がないわねえ」なんて思ったりしますけど、自分の言い分が絶対正義だと思うかのように全方位拡散で学級委員長的な物言いを憚らないだなんて……随分立派な人もいるもんだなあと思った次第であります。

オイ!オイ!