『パッパカパー』(作:史村 翔 画:水野トビオ / 発行元:講談社)

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 ——日曜日の夕方

馬券で負けてしまった虚無感に打ちひしがれて酒をあおるように飲んで不貞寝。

——月曜日の昼

昨日の負けから目を逸らして週末の登録馬を眺める。

——火曜日の夕方
先週末のような失敗を犯すまいと書店のギャンブル棚をギラギラした目で見つめる。

馬券好きの競馬ファンであれば、誰もが経験したことがあるだろう週末から週始にかけての行動。
ここで目を向けたいのは火曜日の夕方の話。
書店。言わずもがな、ギャンブル棚には多くの競馬関連書籍が並んでいる。
その多くは馬券の回収率を向上させるため、つまり、競馬でお金を儲けるための本なわけだが、今回はその片隅にだいたい8%くらいの割合で詰め込まれた競馬に“まつわる”本について書いていきたい。
なんといっても私はその8%側が大好きなのだ。

「何かについて興味を持ったら、その対象について書かれた本を読むといい」
誰かのそんな教えから手に取り、まんまと私を競馬好きに仕立て上げた本、というか漫画……その作品こそ『パッパカパー』だ。


競馬漫画というと、騎手の心理を描いた『ダービージョッキー』や、競走としての競馬の熱狂を立ちのぼらせた『みどりのマキバオー』、競馬サークル内を可笑しく表した『馬なり1ハロン劇場』など……競馬を題材にするということは多くの場合、書き手が“好きである”ことが前提としてあるため、熱量にあふれた作品が多く、良作が集まりやすい(気がする)。
『パッパカパー』も例に漏れず、無類の競馬好きで知られる武論尊が原作を書いているぶん、そのエネルギーは凄まじく……

と、つべこべ続けず、この漫画について簡単に(というよりは雑に)要約すると、1人の浪人生が悪友に誘われて、競馬にのめり込んで、借金をつくったあげく、取り立てのヤクザから逃げ回り、その道中で日本各地の競馬場を巡るという物語。

もったいぶらずに画像を貼り付けてしまうと

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この青年が

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こうなって

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こうなって(左)

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こういう大人になる

…とまあ、そういう漫画でして。

作品を通して描かれる、1人の青年が競馬にのめり込んでいくさまは、読者が競馬ファンであれば、その人の歩んだ道のりを別のかたちで追体験させられ、重ね合わさせられる。そして読書後はこれまで以上に新鮮な気持ちで競馬を楽しめるようになるはず。保証する。

読者が競馬ファンでなければ、馬券好きの友人・パートナー・配偶者・見知らぬおじさんが何故あんなにも必死にマークシートを塗り続けるのか、その理由が少しはわかって、愛おしく思えるはず。保証する。 

そして、登場人物の彼らが借金取りのヤクザから逃げ回る道中で、恋だ愛だのすったもんだを経ながら訪れる競馬場は、川崎競馬場盛岡競馬場荒尾競馬場笠松競馬場宇都宮競馬場船橋競馬場などなど、(今となっては存在しない競馬場もありますが)味わい深い競馬場ばかり。各地を訪れる彼らを見ていると、競馬ファンであれば、抗いようなく、どうしても旅打ちに行きたくなってくる。これまた保証する。

まるで、良質なロードムービーを観終えた後に旅に出かけたくなるのと同じような感覚。『パッパカパー』を読み終える頃、いや、読んでいる最中から、あなたは必ずや旅打ちに行きたくてうずうずしてしまう。

そんな最高のホースレーシング・ロード・コミックが『パッパカパー』。

ふざけたタイトルだけど名作です。

既に絶版のようですが、中古市場には相当数流通してるみたいなんで是非。

 

Vシネブームに乗じてVHS作品として映画化もしたそうです。こちらはまだ未見。

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『パッパカパー』(作:史村 翔 画:水野トビオ / 発行元:講談社)
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