2018年に読んだ良かった本【文芸】
2018年に刊行された中から良かった本をまとめてみました。各作品に偉そうに短評つき。年末年始のお供として、どの本もおすすめです。アフィリエント仕込んだりしてないんで「小銭稼ごうとしやがって」と余計なことを考えずにリンクどんどん飛んでみてください。
表題作が大傑作。2010年の東京に1944年の戦時下の東京が重なって見えるようになる家族の日常物語。東京大空襲を迎えようとする日常生活がディレイして重なることについて、SF的なほのめかしはあるものの真相が解明されることはない。俳句的魅力の読後感。
ディレイ・エフェクトと同じ宮内悠介氏の作品。好きなんですよね。「深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた」という惹句で煽ってくるものの、バカSFばかりというわけではない。天才と言われる人がちょっとぶっ飛んでるところがあるそれに近い。イかれててクール。収録作の「アニマとエーファ」は物語を紡ぐロボットアニマと、物語を生きる少女エーファの物語。これを読むためだけでも買う価値あり。出色。
洗練と寓意とメタ構造をふんだんに盛り込んで王道ど真ん中のストーリーを紡いだ超絶技巧SF。ヤサイマシマシアブラマシマシニンニクマシマシだけど上品な料理、みたいな。読み終えた後、読んでいる途中からも「うおー」と何度も唸った。
SFばかり並べても芸がないんでそれ以外からも一冊。東大生が起こした強制わいせつ事件をベースに被害者と加害者の人生を交互に描き出す。無意識に人を見下す選民意識だとか、自分が普段の生活で(意識していないけど)やっていることに改めて視線を向けさせられる。しんどくて身も蓋もない最悪な読後感が上質。
短編集『アンチ・クリストの誕生』で海外文学ファンの裾野を広げたレオ・ペルッツの新作。やはりこの人の魅惑的な文章が輝きを放つのは長編。捕虜生活の復讐冒険譚なので、幻想性は削ぎ落とされているも、本当にグイグイ読み進めさせられる。冒険譚でありながら結末はアンチ冒険譚。ペルッツが常にメタ的な視座を持って物語を書いていることがよくわかる。
アフリカ系アメリカ人の青年が明晰な頭脳と的確な推理力で音楽業界の内幕に迫る探偵モノ。物語は良い意味で予定調和なぶん、ハリウッド的というか、王道アメリカンな展開の上質エンターテイメント。めちゃくちゃうまいハンバーガーとポテトを貪って口の中をパンパンにしたあとコカ・コーラで流し込む美味しさのような気持ち良さ!
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)
- 作者: 郝景芳,ケンリュウ,牧野千穂,中原尚哉,大谷真弓,鳴庭真人,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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中国人作家のSFアンソロジー。お国柄もあって検閲だとか、高齢者の介護問題だとか、随所にらしさがあるものの、紹介される作品は多種多様でひとくくりにできない幅広さと奥深さ。SFとして面白いだけでなく、短編集としても素晴らしい出来。ケン・リュウによる序文と、各作家の紹介文、立原透耶さんによる解説までついてきて、これぞ至れり尽くせり。終始、登場人物にルビがふってあるという細かな気遣いもかゆいところに手が届いてナイスです。
ロボットを生んだ国のSFをまとめた短編集。大傑作!と唸らされる作品こそないものの、それぞれの作品どれもが非凡。解説によると、チェコでは他国に比べSFファンタジー書店がごく多いらしい。それだけに読者の求めるレベルも高く、応えようとする作品の質も底上げされてるんでしょうか。海外文学を読む愉しみのひとつである文化圏の違いによる新鮮な手触りに溢れる一冊。
こんなところでしょうか。明日はノンフィクション・芸術書・漫画について振り返られればと思っています。それではそれでは。