居場所はどこにある(函館スプリントS予想)

「据え膳食わぬは男の恥」とはよくいうが、実際にそんな現場に遭遇すると、その後に起こりうるめんどくささが透けて見えることが多く、なかなか事には及びづらい。

共に終電を逃した末、Kさんと池袋の公園脇にあるホテルで朝まで過ごした時もそうだった。

Kさんは大学の一学年上の先輩。才色兼備をかたちにしたような人で、俺の拙い喋りを楽しそうに聞いてくれ、共感できない点は理解しようと努めてくれる、理解できない場合は建設的な批判を突きつけてきて、なおかつ飲みっぷりもいい。新垣結衣に似ていたこともあって、憧れのかっこいい女性としてKさんと接していた。
思えば、Kさんは自分が想像していた大学生活との大きなギャップを痛感していた時に知り合った女性だった。
上京しても好転しない生活にも関わらず映画ばかり見て、酒を飲み続け、人の意見を積極的に聞こうともしない。もっと売れたいから注目してくれ……そんなモラトリアムの中、熱心に話を聞いてくれる美人なんかと出会ったら、そりゃもうホの字ですわ。
拠り所、というか、偽らざる自分を受け入れてくれる「居場所」みたいな人だったんだと思う。
ってなわけで、あの夜も口説きに口説いた果てにホテルにたどり着いていた。
頭の中は情事でいっぱい。羽生善治ばりにこれからの指し手を100手先まで読んだ。王将を討ちとれない悪手を片っ端から消して、黄金手を探し出した。
にも関わらず、にも関わらず、結局手出しできなかったんですよね。
その後に起こりうること。なんというか、大切にしたいと思っている「居場所」が無くなることを恐れて逡巡したんでしょうね。今思えば、うん。

そんなKさんと先日4年ぶりに再会した。
転職で東京に戻ってきたことを知った自分から声をかけたのだ。
再会の日は夜遅くまで飲むこともなく、ホテルにも行かず、アバンチュールなんてもちろんない。そのまま帰宅した。
いや、なんというか、それが良かったんですよね。
大切な関係がいまもこうして保てていたのは、あの夜、据え膳よりも自分の居場所を優先したからだったかもな、そんなことを考えたわけですよ、うん。


今回は「居場所」についての話から入ってみた。というのも……
若者の6割がインターネット空間を「自分の居場所と感じている」政府調査 学校・職場を超える
という見出しから始まるニュースが新聞を飾っていたからで。
そのまま読み進めてみると
若者の“居場所”についても調査を実施。自分の部屋、家庭、学校、職場、地域、インターネット空間の6つの場所で、それぞれ“自分の居場所だと感じている”かどうかを調べています。その結果、自分の部屋(89.0%)家庭(79.9%)に次いで、インターネット空間(62.1%)を“自分の居場所”と感じている若者が多いことが分かりました。
その下には地域(58.5%)学校(49.2%)と続き、最下位は職場(39.3%)となっています。
と続く。
やや問題提起寄りの取り上げ方だったが、果たしてどうなのかと思ってですね。
別にインターネットが一番の居場所でもいいと思うわけですよ。今時そこから広がる交友関係もバカにできないもんだし、自分の居場所だと思える場所はひとつでも多く持ってた方が、心にゆとりとさわやかマナーで生きていけるはず。間違いない。
「現実世界に居場所をつくれ!」
そんな諸先輩がたの意見は隅に置いておいて、
俺が書き残しておきたいのはそういうこと。MMOで結婚式を挙げてもオッケー。俺には理解不能な世界観だけど、居場所があるってことそれ自体が素晴らしいわけで、たとえそれがどんな場所だろうと全面的に肯定したい。ってなことを酩酊した脳みそで考えた。


さてさて、今週から夏競馬。
函館で開催される今年初の重賞は函館スプリントS。本命で買う馬はクリスマスに決めた。
休み明けかつ前走凡走で疲労・ストレスからきっちり解放。土曜の競馬を見て、鞍上の松岡が函館の乗り方をしっかりと抑えていることも確認した。
普段時計はほとんど気にしていないものの、さすがにこれだけ優秀なタイムを持っている馬にローカルという居場所で輝くジョッキーが乗って6番人気なら……まとまり系の人気落ち。さすがに格下相手に情けない競馬はしないだろうし……いやはや買うという選択肢以外ない。そんな判断です。


学生時代の自分じゃないけど、居場所を探すのは競走馬も同じ。
得意な舞台、得意な距離、相性のいい鞍上……居場所を定めるにはさまざまな要素があるものの、クリスマスの居場所は北海道で間違いない。洋芝。自分の居場所で思う存分輝けクリスマス、うん。