まあ今日くらいは(有馬記念予想)

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男は金曜日の夜になると途端に柔和温順になる。
彼女の顔色を窺いつつ、積極的に皿洗いをし、洗濯物も干すし、風呂掃除もする。なんならマッサージだって自ら買って出る。
「早く馬柱眺めて明日の予想がしたいんだけどな……」
そんな気持ちはおくびにも出さない。
真摯に彼女のために働くことで、土・日の限られた時間を気持ちよく競馬場で過ごさせてもらおう。
そんな魂胆のもと、金曜日の夜になると男は途端に柔和温順になる。


しかし、そんな小手先の優しさが通用し続けるほど男女関係というものが簡単なはずはない。
金曜日の夜に機嫌を取り、土日は競馬をさせてもらう。
そんな過ごし方を数ヶ月もすると相手の女性から必ず出てくるのがこんな言葉だ。
「また競馬?」
これまで何人の女性から言われた台詞だろうか。
ある女性からは「馬と私どっちが大事なの?」と絶叫され、ある女性からは「競馬なんて私との時間を奪う相手としか考えてないから」と怒られ、ある女性からは「どうせ馬でしょ」と呆れられてきた。
競馬は休日の朝から夕方という、デートにちょうどいい時間帯に開催されているので、異性との交遊と両立させることが難しいんだ、うん。


しかし、これまで交際してきたどの女性も有馬記念となると、競馬に対しての態度が大きく変わった。
普段は宝くじを買わなくとも年末ジャンボの列には並ぶ。そんな気持ちで、普段は馬券を買わなくとも有馬記念の馬券は買い求めるのだろうか。
年の瀬のどさくさとそわそわに「最後くらい夢を見てやるか」といった気持ちが加算され絶妙に気が大きくなっているのだろうか。
その実態はわからないものの、有馬記念だけはどの女性も競馬に積極的になった。


一年の総決算のドラマチックレースであると同時に、女性が競馬に乗り気になってくれる奇跡的なレース。
自分にとって有馬記念はそんなイメージが強い。
ときには大波乱の年もある。予想外の結果に呆然とする人もいれば、シラケて怒り出す人もいる。その一方両手を上げて大喜びする人も。
もっとも多いのは「こんな結果見当もつかなかったよ」と思わず笑いながら、レースのさまを能天気に語らう人かもしれない。
有馬記念という暮れの祭が醸し出す独特の雰囲気の中で人は、千差万別な表情を浮かべる。
俺は果たしてレースが終わった時、どんな顔をしてるだろうか。
フェブラリーSでモーニンの古馬G1最速勝利&レコード決着に驚かされた表情か、現地でローレルベローチェを見守った高松宮記念で負けはしたものの成長する人馬の姿に感動した時のような表情か、永遠に続くかと思われた写真判定の結果、その日の負け額をジュエラーで捲ることができた桜花賞の時の歓喜の表情か。皐月賞で風の強さに辟易してるような表情か。
書いていけばキリがないほど、今年もさまざまな馬に身銭を賭けて、一攫千金の夢を見た。
そんな今年も有馬記念を迎えた。


今年最後のG1レースで本命の印を打つのはミッキークイーン
全姉は前走で距離延長をこなして勝利。延長臨戦が不安視されるもののミッキークイーンの距離適性の本質が有馬の舞台で輝く。
内に前付けする馬が多いので、延長臨戦でラップが緩くなるぶん、あっさり前受けできそうで、そうすれば確実に好位に付けられる枠順もミッキークイーンの勝利を後押し。
牡馬混合で走らないと言われているものの、ジャパンカップは着順こそ8着だったものの、勝馬とのタイム差はわずかコンマ3秒だったことも付記しておきたい。
叩き良化型のディープインパクト産駒でキレよりも持続力・パワーに比重を置いたタイプなのは明らかで、初コースではありながらも中山適性には期待が持てる。
有馬記念で、伏兵が馬券に絡むためには、とにかく道中ロスのないコースを取る必要があるのは言わずもがな。
ジョッキーが積極的にインベタ走らせて直線も馬群を捌く度胸があるのかどうかというところ。ミッキークイーンを買うにあたって、唯一その点が引っかかりはするものの、そこはリーディングジョッキーの手腕に委ねる。自信の本命。


(いやはや、これまで交際してきた女性の何人が今年の有馬記念を見るんだろう。結果だけでもニュースで見たりするんだろうか。そうすれば、俺のことも思い出してくれるんだろうな、過去の悪い記憶として……)