さよならぼくたちのオフト後楽園

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Google検索で施設の名前を打ち込むと「やばい」というワードがサジェストされ、魔窟と呼ばれることも多かったオフト後楽園が本日2018年6月1日をもって、当地での営業を終了しました。週明けの6月4日からはWINS後楽園に場所を移しての営業が再開される予定とのことです。移転の第一報が入ったのは今年の3月頃だったでしょうか。聞いた当初はまだまだ先のことのように感じていましたが、もうその時が来てしまいました。


無理に感傷的になるつもりはありませんが、東京ドームで開催されるアイドルライブに向かう女性に蔑んだ目で見られることも、東京で最も汚いトイレにいやいや行くことも、夏のおじさん集団のすえた臭いに鼻を塞ぐことも、冬の寒風に吹きさらされて震える手でマークシートを塗ることも、もう体験することができなくなってしまったのかと思うと、少しさみしい気持ちになってしまう自分がいます。


オフト後楽園はいつ行っても、大人の社会では浮いてしまうように見受けられる人がたくさん居て、それぞれがそれぞれに無関心でした。だからか、日常生活で「変わってる」と周りから評されることが多く、なんとか普通になりたいと常々思っている僕は、ただそこに居るだけで、なんと言いますか、「俺も大丈夫だな」と思えるような数少ない場所でした。“後ろ向きながらも地に足のついた自己肯定感”をいつも感じさせてくれた場所、といったところでしょうか。


こうした場所が無くなってしまうことは、ともすれば、臭いものには蓋をする潔癖主義思想への批判、もしくは資本主義最優先社会への批判に考えずを移してしまいそうになりますが、施設が老朽化してきていたこともありますし、致し方ない判断ですよね。とはいえ「懐かしさに負けるような新しさはいらない」ことも事実です。新しいオフト後楽園がこれまで以上に、誰もに優しく、呑気に楽しく馬券が買える空間であること、そうした場所に育っていくことを願っています。


って、こんな真面目な文章はオフト後楽園の最後に似合いませんな。案の定、現地でもクロージングセレモニーめいたことは一切行われなかったですし、馬券親父たちも特になにも気にする様子なくいつも通り帰路についていましたし!

ただいつもより大幅に人は多かったね!

そういうところが好きだよ!!!

 


以下、オフト後楽園私的フォトギャラリー……

 

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陽光に包まれながら惰眠をむさぼる親父

 

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お父さんそっちのけで予想に興じる小学生

 

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入る数歩手前から悪臭が漂うトイレ

 

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基本的に服の彩度は低い

 

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後楽園側から歩いてくると広がる絶景

競馬に関する掌編

中国人の投資家が参入しているという噂がたったのは60年ほど前のことだったかな。一部では噂になっておったんだよ。
その頃はVRBS、ああ、ヴァーチャル・リアリティ・ベースボール・スタジアムがまだ東京ドームという名前でな、人間が木の棒とゴムの玉を道具にして野球をしておったんだ。近くにはWINS後楽園という建物があって、毎週末競馬ファンが集まっとった。
お前さんの年じゃ場外馬券場に行ったこともないか。まあいい。昔はマークシートという紙に自分の買う券種、そして馬、組み合わせ、金額を記入して購入していたんだ。「馬券」を。
驚くのも無理はない。わが国で2度目の東京五輪が開催される、それより10年も前の話なんだからな。想像すらつかないだろう。
えーっと、何の話をしておったかな。そうだ、そうだ。WINS後楽園の話だった。そこに中国人の投資家が集まり始めたのが2007年頃の話だ。あそこには有料の指定席が2種類あってなあ。安い方は1,500円、高い方で5,000円だったはずだ。その高い方の指定席に中国人投資家たちは跋扈していたらしい。貧乏学生で指定席になんて座ったこともない私は見たことはないんだがな。ただし確実に存在したことだけは噂を聞くかぎり間違いのないことだった。
噂を聞くようになるのと時期を同じくして、競馬ファンの文句の数が増えたんだ。いやいや、騎乗方法や騎手に対しての文句ではない。ほとんどの文句は払戻し金についてのものだった。
私だって何度も嘆いた。馬券を買った時には30倍のオッズの組み合わせを買っていても、払い戻しの時には20倍。そんなことが起こり始めたんだ。文句が増えるのも仕方のないことだろう。そうは思わんかね。
はじめはJRAに文句が向けられた。主な訴えは「せめて締め切られてレースが終わるまでにわかる払い戻し額は公表してくれ」というものだった。だが、この現象を引き起こしているのが、中国人の投資家たちだということが噂になり始めると、徐々に文句の矛先は彼らへと向かうようになった。どうやら、〆切の直前にオッズを解析して期待値の高い組み合わせを大量にシステム購入していたらしいんだ。
とはいえ一部の投資家によるものだ。はじめの頃は、さほど大きな問題にもならなかった。だが、AIが一般人にも普及してきた頃には問題は無視できないほど大きくなっていった。オッズが〆切直前と同じままだということなど一度もなくなった。不思議なもので、確定後に払い戻し額が増えたという経験もない。これはまあ、スーパーコンピュータの演算能力によるところが大きいんだろう。詳しいことは私のような者にはわからんのだがな。
しかし、〆切直前オッズと実際の払い戻し額の乖離はもう、背骨に転移した癌みたいなものになってしまったんだ。と言っても伝わらないか。いまや癌は不治の病ではないんだものな。かつて、癌が不治の病の代表とされていた頃には、そういうことわざがあったんだ。
さあ、話を戻そう。私だって払い戻しに関して何度も文句を言ったさ。WINS後楽園で定期的に開かれたデモにも何度も参加した。
デモが開かれて20年くらい経った頃だったか。JRAもようやく重い腰を上げてくれた。「馬券」の発行停止と同時にブックメーカー制を導入したんだ。お前さんの国が昔から導入していた競馬と同じシステムになったというわけだよ。わが国はいつだって西洋諸国のケツを追うことしかできないのだな。G8から追放されるのも無理はないかもしれんな。
またしても話がずれてしまったな。とにかくだ。他の多くのデモと違って、私たちが参加したデモは無駄じゃなかったんだ。JRAという巨大組織を動かし、利益を勝ち取ったんだ。私たちは喜んだ。すぐさま居酒屋で盃を交わしたよ。翌日の朝には、口の中に残った吐瀉物とアルコールの香りで、お茶を口に含んだ瞬間、口内でお茶割りができてしまう。それくらい飲んださ。これが、そうだな、2040年くらいの話だったろうか。
ただ、ここでまた問題が起こったんだ。次はその話をしよう……

と、おっと、もう次のレースが始まるじゃないか!

私の購入した組み合わせは……

軸馬が出走取り消しか! 

また人気馬の取り消しじゃないか!

ええ加減に八百長はやめえ!

 

海外のブックメーカー方式をそのまま転用した日本は<購入した際のオッズで払い戻しが行われる>ようになったと同時に<出走取り消しによる返還>が行われなくなっていたのでした。

 

教訓①
問題の解決が新たな問題を産む場合もある

教訓②
人はなにかにつけて文句をいってしまうだけでなく、他者に責任をなすりつけてしまう生物である

ハズレ馬券を拾い集めてみた

Gallopのエッセー大賞に応募しようと書いた原稿をブログ用に魔改造してアップするという試みのエントリです。
応募した原稿のテーマは、“ハズレ馬券を大量に拾って、それらを比較検討することで立ち現れる「競馬場・場外馬券場ごとの差異」ならびに「馬券の平均値(券種ごとの平均点数・平均金額など)」を探ってみること”でして、それをまあエッセイたらしめる要素を散りばめつつ書いてみたわけです。
が、まあ、それはさておき、ここでは馬券を拾い集めるうえでの由無し事、そして応募した原稿では触れることのできなかった、個別の馬券について書いていきたいと思います。魔改造魔改造
最後には次回作(なんて書くと大それた感じですが、好きで楽しんでやってるだけです)の構想なんかも記してますんで、どうぞ暇な時に一服気分で読んでもらえると幸いです。
そこそこ長くなってしまったので、暇な時に、がおすすめです(と、この一文は4,5割ほど書き進めた時点で書いたのですが、書き終えた頃には、その時想定していたさらに倍の長さになってしまいました……というわけで、ほんとうに、暇な時に、がおすすめです)。
ちなみにGallopのエッセー大賞が箸にも棒にも引っかからなかった場合は、恨みつらみとともに原稿をそのままアップする所存ですので、テーマに興味を持っていただいた方々は、しばしお待ちくださいませ。
それでははじまりはじまり〜。

 

はじめに
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いつだって競馬場・場外馬券場には数多の馬券が散乱していますね。地見師と呼ばれる人たち(アメリカには捨てられた馬券を収集するだけで家族を養ってきたという男性もいるらしい)が存在こそするものの、ほとんどの来場者にとっては、それらはどこからどう見ても「ゴミ」と称するほかないでしょう。しかし、前書きでも触れたとおり、私にとっては、それは大切な資料。まずは、ハズレ馬券を比較観察するにあたっての心構えから書いていきたいと思います。


羞恥心の放棄がスタートライン
あなたはハズレ馬券を拾ったことがあるでしょうか? あったとしても、たかが数枚、床に落ちている馬券を拾い見て、ハズレっぷりをほくそ笑んだことがある。といった程度ではないでしょうか。
採取を始めた当初の自分自身がそうだったんですよね。馬券を拾い集めた経験などなく、なになら乞食じみた行為に相応の羞恥心を感じていて、いそいそと必要最低限の体の動きで腰を屈めてみたり、なるべく人様の邪魔にならぬような採取行動で成果は1日100枚未満……  集めようと頭では思っているものの、ガキの使い程度の馬券しか集めることができない……
とはいえ、ハズレ馬券を集めて比較して浮かび上がってくる数字には興味があるし、なにより〆切も迫っていたgallopのエッセーに応募するテーマはこれだと既に決めていたわけで。じゃあ、もうやるしかない、と。でも、やるんだよ! と、そういうわけで、もう思い切ってやってみることにしました。
唐突な根性論ですが、羞恥心を放棄することこそ馬券採取のスタートラインです。ナンパでもなんでも(やったことないですが)、一歩踏み出すことが難しいだけで、いざやってみれば、なんてことはないもんです。というわけで、羞恥心を放棄してみると、なんとまあ、それだけで簡単に集まる集まる。
ポイントは、とにもかくにもゴミ箱の中に捨てられた馬券があることも目視したら、何も考えず、一直線に手を突っ込むこと! メインの採取スポット ゴミ箱だけでなく、床に落ちている馬券も拾えば、券売機横に設置されている「不要投票券はこちらに」ボックスの中に捨てられた馬券も恥をかき捨て掻っ攫っていきました。
競馬場・場外馬券場なんて、自分の馬券に精一杯で周りの行動にやっかみを付ける人なんてほとんどいないですからね。気にしない気にしない。何も気にせず、恥を捨て、ハズレ馬券に目を光らせることが肝要です。
ただし、飲食スポットが近くにあるゴミ箱には細心の注意が必要。想像にやすいでしょうが、飲み残しや食べ残しがぶち込まれていることが多いんですよね……
また、私が実際に採取を行っている最中、ゴミ箱に向けて痰を吐きこむ爺さんもいました(他にも驚愕させられる現場には散々遭遇したものの、それは本稿で触れてるんで割愛)。
そうしたトラップがちらほら潜んでいることに警戒しながら、数ヶ月間採取を継続。合わせて3万枚程度の馬券を各場から収集しました。

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ちなみに、競馬場・場外馬券場によって、ゴミ箱のスタイルは多種多様。大井競馬場は中の見えない蓋回転式ゴミ箱がほとんどなので採取のハードルが高いといえるでしょう。写真はJRA主催の競馬場・場外馬券売り場で設置率が最も高いスタンダードタイプ。このタイプは採取が容易ですね。

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ちなみに川崎競馬場のゴミ箱はこれ。スタンダードタイプではあるものの、バージョンが微妙に異なる。そして、川崎競馬場はゴミ箱の前面にそのままビニール袋を設置することで、ゴミ箱の容積を拡張しています。中央ほど清掃員に予算をかけられないからでしょうか。工夫ですね。


分類・集計は“機械の気分で”
集めた馬券は、なるべくその日のうちに、チェーン系居酒屋だとか、ファミレスだとか、テーブルの広いお店で開催場所・レース番号別に仕分けていきます(いい歳した兄ちゃんが広いテーブルをいっぱいに使って馬券を並べているさまは異様な光景でしょうね……)。
この際にレース結果も照らし合わせながら分類を行っていくと、馬券購入者の心理もうっすら感じとれるうえに、そこそこの確率で当たり馬券が混入しているので、後人がいれば是非その方法を勧めたいところです。
分類を行った馬券は、採取日次・採取場所・開催場所・レース番号・買い目・買い方・金額と項目を分け、エクセルに入力。
とまあ、なんとも地味な作業を機械の気分でこなしていきます。この作業はただただ苦痛。おそらく交通量調査のバイトに似た感覚を得られる作業。特に気をつけることもないです。ただただ機械の気分でこなしていくのみです。

 

馬券全体の傾向を観察する
とまあ、そうして、算出されたのが以下の数字です(極端な値を誘引する数枚の馬券は意図的に省いています)。
東京競馬場
採取枚数 9,432枚
券種割合 単勝:9.3% 複勝:5.6% 馬連:16.2% 馬単:9.4% 枠連:7.2% ワイド:10.3% 三連複:20.6% 三連単:21.4% 
券種別平均購入点数 単勝:1.34点 複勝:1.1点 馬連:4.47点 馬単:4.44点 枠連:3.52点 ワイド:3.01点 三連複:6.12点 三連単:8.76点
券種別平均購入金額 単勝:465.9円 複勝:781.6円 馬連:281.1円 馬単:230.3円 枠連:271.4円 ワイド:425.3円 三連複:187.7円 三連単:142.0円

WINS後楽園
採取枚数 8,615枚
券種割合 単勝:8.1% 複勝:5.7% 馬連:12.7% 馬単:10.1% 枠連:8.6% ワイド:8.9% 三連複:20.2% 三連単:25.7%
券種別平均購入点数 単勝:1.42点 複勝:1.15点 馬連:4.58点 馬単:4.95点 枠連:2.53点 ワイド:3.21点 三連複:6.14点 三連単:8.76点
券種別平均購入金額 単勝:627.8円 複勝:947.3円 馬連:294.2円 馬単:238.7円 枠連:413.2円 ワイド:275.1円 三連複:192.8円 三連単:132.8円

数字だけ並べてもなんじゃらほいですね。というわけで図版も載せてみます。
券種別割合
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券種別平均購入点数

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券種別平均購入金額

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皆さま自身が普段購入している金額、点数と比べて、いかがでしょうか。
私の場合、馬連を5頭に200円、もしくは300円ずつ流すのが基本的なスタンスなので、そこそこ一般的な馬券購入者といえるのでしょう。
これは、私のような貧乏暇なし馬券ファンの背中を優しくさすってくれるような結果になったといいますか、なんといいますか。
競馬はギャンブルであるがために「いかに金を稼いだか」をある種の絶対的な価値基準と認識している人が一定数いて(その考えを否定するつもりこそありませんが)、いわゆる100円単位の豆券が馬鹿にされることが時折ありますが、実際に購入されている馬券を見てみると、上の数字の通り、ほぼ豆券に近い購入額ですね。
これは、私のような貧乏暇なし馬券ファンを励ます結果になったといいますか、なんといいますか。
ちなみに、ここでは紹介を省きましたが、地方競馬場(大井競馬場)と地方の場外馬券売り場(オフト後楽園)で購入金額を比較してみると、現地よりも場外の方が平均購入金額がかなり安い(JRA主催とは逆ということ)という点は興味深く受け取りました。
あくまで推測・観察の域を超えない、もはや偏見に近い考えなのですが、これは採取を行ったオフト後楽園の客層によるところが大きいのだと思います。
オフト後楽園は競馬歴がかなり長いと見受けられる方が多く、日がな一日馬券を購入しているご年配の方々がほとんどなわけです。
それだけ、長期間競馬を楽しもうという意識が強い人が集っているがゆえに、大勝負をすることなく、少額で馬券を購入する人が多いぶん、傾向が逆転したのではないだろうか、と思うわけです。
それは決して悪いことじゃなくて、むしろ素晴らしいことといいますか。
競馬場・場外馬券売り場によって、購入される馬券の傾向が変わったり、金額が変わったり、それはある種の社会学的な(というと随分大げさですが)価値を感じてしまいますし、くわえて時代ごとの観察もできれば、それはある種の文化人類学的な(というと随分大げさですが)トピックたりうるのではないか、とすら思っています。
なんとも全国各地で同じ試みを果たしてみたいものですね。
園田には園田の、水沢には水沢の、小倉には小倉の…… その土地土地で必ずや傾向・特徴が表れてくると、予見しているので、gallopのエッセー大賞に入選したら、その賞金でどこかの競馬場に取材に行きたいなあと考えています。

*先回りの補足
JRAが公式に発表している券種割合(金額ベース)を公式ページの成事業報告書から引っ張ってくると
単勝:5.6% 複勝:8.1% 馬連:14.5% 馬単:7.2% 枠連:3.4% ワイド:7.2% 三連複:19.9% 三連単:32.8%
というわけで…… この数値にあわせて、私の採取した馬券を金額ベースの券種割合にすると、
単勝:6.7% 複勝:5.5% 馬連:15.0% 馬単:10.5% 枠連:7.9% ワイド:6.9% 三連複:21.0% 三連単:26.3%
なので、比較検討するうえで、そこまで説得力のないサンプルということはないと思います。
が、重箱の隅をつつかれるのも面倒なので付記しておきますと、まず、もちろん現在ではインターネット投票システムが整備されていて、この調査では浮かび上がって来ない数字もあります。こればかりは仕方ないし、もう少し地場的な観察作業がしたかったんで、そこはまあ良しとさせてください。
さらに書くと、ここで調べた結果が全競馬ファンにとっての適切な標本を代表していると主張するつもりはないです。そして、こうした分析の結果や解釈が標本に完全に依るものではないことも百も承知。だとしても、この調査によって浮かび上がる数字には、ある種の指標としてなんらかの価値があるはずだと思いたい……思いたいのです……

 

馬券1枚1枚を観察する
パラノ気味な言い訳はさておき、ここからは拾った馬券のうち、特に印象深かったものを中央・地方1件ずつ紹介していきたいと思います。

絶対に当てなければいけない勝負がそこにはあった……?
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朝から1レースも欠かすことなく馬券を買い続けるも、予想はてんで的外れなものばかりで、財布の中身も減ってきた。まずはなんでもいいから当てることが大事だ。そこからツキを呼び寄せてなんとか挽回していこう。そうだ、次のレースは絶対に当てなければいけない勝負だ。
そう思ったかどうかはわからないが、当たらずといえども遠からずな推測だろう。自分自身似たような心境になることがないとはいえません。
そんな男が買った馬券は単勝全頭均一買い。
ハズレ馬券を採取していると「予想の放棄」に遭遇しがちなんですが、ここまで潔い「予想の放棄」はある種の男らしさすら感じます。
ちなみに、馬券右下部にある発券番号が30184601…30184602………30184605と並んでいるものの、30184604の馬券のみ抜け落ちているので、一連の馬券群は1人の人物が連続して購入した馬券であること、そして30184604の馬券は的中しているということがわかるわけですね。

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結果は360円の払い戻しで、的中していながら-1,440円という悲しいものに。ハナ差2着に敗れてしまった9番人気トモジャクアルトが1着に入線していれば、払い戻しは4,260円。
馬券購入者のツキのなさが垣間見えるあたりも味わい深いポイントです。


一か八かにかける漢
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川崎競馬場で採取した際、思わず「おー」と声をあげてしまった馬券がこちらです。1Rに投じた金額は112,000円。長く採取を続けていても、これほど気合の入った馬券に遭遇することは稀なことです。
しかし、馬単ボックス56点買いとはこれいかに…… 上限を見れば708.8倍のオッズもあるものの、下限は11.1倍。そしてトリガミになる組み合わせが19通り。56点中19点がトリガミになるにもかかわらず、男はいったいなぜ大勝負に打って出たのでしょうか。
12頭立てのレースで、消した馬はたったの4頭。
どの馬を消したのかと探ってみると、10番人気・11番人気・12番人気の馬……と、ここまでは理解できる消し方なのですが、消した最後の一頭は4番人気のドリームマオなんですよね。
推測が一気に難しくなってきました。
ドリームマオは先行してしぶとい堅実な走りが魅力の馬で、C3での大崩れは考えづらい馬。この日のレースで特に調教が悪かったわけでもなく、当日の日刊競馬の印を見てみても、なぜこの馬を切る決断をしたのか謎は深まる。
吉原を嫌悪していたのでしょうか……(その気持ちはわからなくもない)
金持ちの道楽と言ってしまえば、それまでなのですが、そう簡単に納得できない強い意志のような何かをこの馬券からは感じました。
男がなぜこの馬券を購入したのか、皆様にも一度考えてみてほしいですし、ロジカルな見解に膝を打ちたい自分がおります。

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高額なハズレ馬券は、かける思いの強さゆえか、ビリビリに破り捨てられていたり、グシャグシャに丸め捨てられていることが多いのですが、この馬券はご覧の通りきれいな状態でした。
男は自分が唯一切った人気馬が悠々と2着粘りこみを果たそうという時、いったいどんな心境だったのでしょう。想像すると、ギャンブルの魔物が手招きしている姿が浮かんできてしまいます。

 

終わりに
さて、こうして個別のハズレ馬券を面白がりながら紹介しましたが、馬券を買うということは、基本的に自分が汗水流して働いたお金を賭ける行為なので、どんなにばかばかしい馬券であっても、なぜその馬券を買ったのか、必ず理由があるわけですよね。それを推察したり観察することはなんとも面白い、と思うのですが、いかがでしょうか。
個別具体的な馬券の推察という試みは名著『あやしい馬券心理ファイル』(情報センター出版局発行)シリーズで、すでに谷川弘虫(知られた話ではあるかもしれませんがかなざわいっせい氏の変名です念のため)氏が行われてますが、最近はめっきりハズレ馬券活動されていないようですし、楽しく著書を読んで育った後人として、書かせていただいた次第です。

と、好き放題書き続けていると、Gallopに応募した原稿よりも長文になってしまいました。
ここまでお付き合いいただいた皆様、この下の次回予告もついでに一読いただけますと、これ幸いでございます
そして、面白かったよ〜という皆様は、Twitterなりなんなりで拡散していただけますと、これまた幸いでございます。
それでは、以上をもって、Gallop応募原稿魔改造エントリを〆させていただきます。
長文読んでいただき、ありがとうございました。
繰り返しにはなりますが、いつか海外のハズレ馬券採取だとか、国内各所の競馬場で同様の試みをしたいと思っています!

 

おまけ

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なお、ハズレ馬券かと思って拾った馬券の中には当たり馬券も混在してしまっているもので…… 写真の馬券は5,720円の払い戻しとなる馬券でして、この他にもいくつかの当たり馬券が…… 馬券の管理には気をつけましょうね……(当たっていた馬券は全て各スタッフの方々へ返却しました。ということにしておきましょう)


次回予告
次回の更新は「人の予想を観察する」です。
いつになるかは未定ですが、現在最終レース終了後にゴミ箱を巡回し、捨てられた新聞をどかどか採取しております。
専門誌に丁寧に惹かれた蛍光ペンの意図を探ってみたり、スポーツ紙に書き込まれた謎の文字列を解読してみたり、はたまた、レーシングペーパーのみで予想をしている熟練の博打打ちがどのように競馬予想を行っているのか…… 何が見えてくるのか、見えてこないのか、さっぱり見通しはつきませんが、そんな「人の予想」に迫ってみようかと。

2017年ベストあれこれ

正月三が日を終えて世間様も通常営業に戻りつつあるこのタイミングで2017年を振り返り。

といいますのも、まだ30代にもかかわらず余命宣告を受けた友人や身内の訃報…なんとも生死に関わるいろいろが周りで頻発しておりまして。
新年早々の問わず語りまことに恐縮なのですが、いま生きていて何を感じているのかを残すことに関心が高まってきているのかもしれません。
というわけでして、自分にとって身近な本、音楽、その他もろもろ……みたいな順に列挙できれば。
このブログにたどり着いた皆さんとともに「あれいいよね!」と共感したり、「知らなかったけどいいじゃん!」と新たな出会いを楽しんだり、そんないろんな「いい」を振り返ることで2018年を楽しくスタート、ってなわけで。
自分が死んだ後に身内がこれを読んでいたら、あいつはこんなのを見聞きして楽しんでいたんだな、と思い出話の肴にでもしてください。

 

【本】

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仕事だからということを除いても、10年弱継続して毎年200冊程度の本を読むのはほとんどビョーキに近い。去年も読んだし、きっと今年も読むんだろう。本を読むのは快楽に溺れたいからという理由が大きくて、ほとんど性欲に近い。読めないイライラはヌケないムラムラに近い。


『ゴーストタウン』ロバート・クーヴァー
いわゆるポストモダン・ウエスタン。西部劇の定型をメタ的にパロディ化していて読みながら何度ニヤついたか…… 今年映画化されるキング『ダークタワー』の第1巻『ガンスリンガー』がネタとして特に捏ねくり回されていた。日本でも100人くらいの人間が冒頭10数ページを読み比べだと思う。ランズデールやアンナ・カヴァン、もちろんピンチョンにも通じる文学=フィクションの愉悦に満ち満ちた傑作。


黒人文学全集11 ニグロ・エッセイ集』
悠久堂書店でバラ1冊100円で投げ売りされていたところを他の巻とともにあるだけまとめ買い。初版は1963年だけど今年読んだので挙げる。抑圧を文化の力で乗り越えようともがいて生まれたもの(もしくは抑圧を文化の力で耐えてきた人間の語る言葉)はすべての報われない人間(つまり全人類)へのアンセム。まず街で見かけることはないでしょうが、見かけたら是非。イソップ寓話のような気づきにあふれた一冊、間違いない。昭和3,40年代は文学全集の流行りもあってか「こんなものまで?!」が書籍化されていて楽しいですね。


『RED ヒトラーのデザイン』松田行正
アメリカではトランプ政権が誕生して東アジア情勢もバチバチ。ポピュラリティーについて考えさせられたのが2017年だったといっても過言はない。となると過去の(負の)遺産から学びなおしたくなるもので。ヒトラーがデザインを通じていかにプロパガンダ推し進めていたか。類書『絶対の宣伝』が長らく絶版になっていて40,000円くらいの市場価格でなかなか手を出せなかった中で日本一聡明かつ編集者に優しいデザイナー松田行正さんが筆をとった力作(と思ったら上に挙げた『絶対の宣伝』も復刊していたもよう……)。ナチの凄みとそれ故の恐ろしさ。いま読む価値ある一冊。


『アンチクリストの誕生』レオ・ペルッツ
あえて大袈裟に書くと幻想小説と落語との邂逅。文章に秘められた意図もそれはそれはテクニカルなんですけど、もう単純に構造・物語が面白い。緻密さの上に成り立つ奔放さこそ芸術の真髄であることを“百年前の小説に”改めて気づかされました。それとそのはず、編集は藤原編集室。これはもう競馬で言うところのノーザン生産、浦和の小久保、春天武豊…… とりあえず買っておいて損はないというわけです。ボルヘスが太鼓判を押すのも納得、出色。


横浜駅SF』
なんだか固そうな本がずらっと並んだような気がするので最後はライトノベル枠(見つからず画像なし)。あらすじはというと「絶え間ない改築の続く横浜駅がついに自己増殖の能力を獲得し、膨張を開始して数百年後の日本」という。こんなの聞くと、それだけでワクワクするのがSF者の性。渋谷とかほんとそんな感じですもんね、一昔前の大阪駅とか。そんな風に実感に基づいた荒唐無稽な設定がどう収斂していくのか……ってもう勢いですよ! Twitterのつぶやきから始まった物語、だからこそ生まれ得た作品。実に平成の終わりに相応しい。

 

【音楽】
ジャズ・民族音楽を聴く時間が減った一年。これは間違いなく音楽環境をレコード→ストリーミングに移行させたから。Apple music、Sporifi、騰訊の音楽IPOの隆盛を眺めていると、同じような人は少なくなさそうだし、時代の流れなんですかね。今年はもっと雑多に聴きたい。


Painting Pictures / Kodak Black

 

ド級の不良が持ち合わせる繊細な感情に弱いんですよね。2017年で一番回転させたアルバム。収録曲の『Side Ni***a』は、愛しのあの娘の隣にいるイケてる黒人男性への恨み妬みを(多分)ゆったりオンビートできっちり乗せてしんみりグッとくる。アルバム通して青年期しか持ち合わせることのできない葛藤…それをメロウにまとめられたら遠く離れた黄色人種のおじさんもしっとりですよ。これで20歳!圧倒的タレント!!!


CAPTAIN GANJA AND SPACE PATROL / TRADITION

一時はebayで1,000ドル弱で取引されていた幻の名盤が復活。ダブ・レゲエファンにはもちろんのこと、思わせぶりなタイトルはGeorge Russel『Jazz in the space age』も連想させますし、あのあたりのフリージャズ、フュージョン好きな方も、ベースミュージックファンは誰もが味わえる。


No One Ever Really Dies / N.E.R.D

(U.Sのポップ枠的扱いでKehlaniと悩みつつこちらを……)どメジャーですが2017年で一番ゴキゲンなアルバムが年末に飛び込んできたので挙げてみる。そうそうみんなが好きなアメリカはトランプのそれじゃなくてこれっすよ。グループ名どおりナードな雰囲気が底を流れているものの、絶妙な味付けでアメリカンポップに仕上げてしまうのがファレルパワーか。聴きやすい、それでいて実にオリジナル。『Happy』でファレル好きになった人が聞けば、彼の新たな一面・底力に感銘を受けるはず。


Pizza / OOHYO


2017年に知って一番良かった女性シンガー(二番目に良かったのはものんくるのボーカルの女性)。シンプルに気持ちイイ。それにしてもKpopは雨後の筍のようにどかどかといい歌い手が出てきますね。産業構造の違いと言われれば、それまでなんですが負けるな日本!


MODERN TIMES / PUNPEE

この一枚を挙げる気恥ずかしさがないわけではないけど、そんなものすっ飛ばして、ずっとアルバム待ってましたし、2017年の音楽を振り返る上で外せない存在なのは疑いようなし。アルバムリリースだからこそ…が考え抜かれていて、一聴するだに「クラシックが生まれた!」と気づかされましたし、日本語のひぷほぷファンの方々はみんなして盛り上がりましたね。水曜日のダウンタウンでその才能を国民に知らしめ、音楽ファンからも支持を集め、その人気・期待度の高さが白日のもとにさらされた彼が次にどんな鮮やかなステップを踏み出すことやら。楽しみす。


とまあ、主に競馬に関する由無し事を綴ってきたブログなわけですが、たまにはこんな更新があってもいいじゃないですか、ええ。
(本当はグッときたレースや美味かった酒なども列挙しようと思ったんですが、長くなったのでこの辺りで……)

今年もどうぞよろしくお願いします。

キタサンブラックという馬がおってだな……

ああっと、どこまで話したかな。

あの馬が引退レースの有馬記念で他の馬に一度も先頭を譲ることなくゴール板を駆け抜けた頃の話だったか。
はるか昔のようだ。
そうだな…まだ競馬がこの国で規制される前の話。
カジノを完成させた我が国がその歳入の膨大さに目を輝かせ、経産省の……名前は忘れてしまったがつり目の女性議員が主導となって、他の公営競技も盛り上げようと、コンビニ、駅の売店、トイレ、かつて公衆電話と呼ばれていた箱状の建屋などなど、あらゆる場所が馬券購入所となるよりもずっと前の話の……といったらわかりやすいかい?
あの頃は、とにかく、いい時代だった。
今とは違って、馬に跨るのは人間だったし、それゆえの駆け引きも多分にあった。今じゃ考えられないかもしれないが、レースが開催される週末ともなれば、場外馬券売り場や競馬場は大勢の人でごった返したもんだ。競馬場に家族連れで来てたんだぞ。信じられないだろう。
そうだよ、極端な規制緩和が多くの破産者を招く前の話だ。あの頃からギャンブル依存症患者の破産がないわけではなかったんだがな。少し前の時代のように、ギャンブルで得た歳入がギャンブル依存患者の破産費用に充てられるという無意味なキャッシュフローを多くの経済評論AIに問題視される前の話、そう昔の話だよ。
ああ、脇道に逸れてしまったな。
そう、かつてキタサンブラックという馬がおってだな……

 

(なんて、ディストピアSFみたいな話をつらつら書いていたんですけど、あまりにも長くなってしまったので9/10を削除)

 

こんな軽薄な作り話から書き始めたのは、とにかく極端にキタサンブラックのことを過去形として語りたかったわけですよ。
パースペクティブこそ違えど、2017年12月25日、有馬記念の翌日、つまり(このエントリを書いている)今日から、あの馬の走りについて語るときに過去形を使わざるをえなくなってしまったことを痛感したわけで。
馬券としては嫌い続けてきた(そのぶん随分ヤラレてしまった)わけだけど
「キタサンとかほんとに強いの?」
「この臨戦で来れる?」
「いやいや人気なさすぎでしょ!もっと吸ってくれよ!」
「それにしてもとんでもない馬体ですよね!」
などなど……
キタサンブラックについて、ああだこうだと現在進行形、もしくは未来形で語っていた日々がすでに懐かしくなっているわけですね、不思議なもので。
特に好きでも嫌いでもなかった(いや、正確に書くと、どちらかというと嫌いだった、馬券を割られ続けたから)けど、なんというか、奇妙な喪失感を感じてしまっている自分がいるわけです。もう過去の馬な訳ですよね。少なくとも競走上は。
うーん、なんというか、そういうわけです。
やまなしオチなし意味なし。