いま考えればよくわかる(フェブラリーS予想)

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神保町の『BIG BOY』というジャズバーに通っていた時期がある。元グラフィックデザイナーの店主とその奥さま、60代のご夫婦2人で切り盛りされる小さな店は、いつ訪れてもJBLの巨大なスピーカーからジャズが鳴り響き、一部の音楽好きにとってたまらない空間だった。ジャズバーだからといって、肩肘を張って音楽に没頭しなければならない、という雰囲気でない辺りも、通うきっかけになった一つの理由かもしれない。私のような無精者が行っても「リクエストありますか?」とにこやかに語りかけてくれる店主だからこそつくりだせる空気だったように思う。ただし、音響機器のために……という理由で禁煙が厳命されているあたりは、喫煙者の私にとって居心地が悪かった。そして、20歳を迎えたばかりで背伸びしてその店に通っていた私は、周りの客に比べてあまりにも若いという事実からくる居心地の悪さも感じていた。

年齢で舐められたくないという気持ちから、本当に聞きたいわけではないジョージラッセルの『jazz in the space age』(癖が強く好き嫌いが分かれがちな盤)だとか、「エリックドルフィーが聞きたいから」と言ったうえで、チャールズミンガスの『town hall concert』をかけてほしい、などと伝え、店内に珍妙な音を鳴り響かせてしまい、周りの客からよく訝しがられた。

いま振り返ればよくわかる。もっとスタンダードなジャズをかけてもらうべきなのだ。


「え?!ジャズ好きなんですか?!私エヴァンスすっごい好きなんですよ!」

新歓コンパを終え、二次会のカラオケに向かう道中で、新入生のMが熱っぽく語ってきた。山形から上京してきたという割に周りの新入生と比べてヤケに垢抜けて見えた彼女は、「今までジャズ聴いてる人なんて周りにいなかったからとても嬉しい」と続ける。Mとも『BIG BOY』に足を運んだ。そして、相変わらず私は珍奇でマニアックな曲をリクエストし続けた。周りの客だけでなく、今度はMもポカンとした表情でグラスの氷を揺らしていた。だってエヴァンスが好きと言っていたんだから。

いま振り返ればよくわかる。もっとスタンダードなジャズをかけてもらうべきなのだ。


週末に開催される2019年初のG1競走フェブラリーSには最もスタンダードなジャズといっても過言ではない名曲『Mornin'』と同名の馬が出走する。これしかないだろう。スタンダードなジャズで勝利を掴むのだ。レース結果を振り返って、いま振り返ればよくわかる。もっと……とならないような結果がほしいものである。書くまでもないが、本命はモーニン。