芦毛の馬の話(菊花賞)

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「絶対に大丈夫やって。奨学金返済のアテになんで。」

   当時、日本一の売り上げを記録していた大阪駅のマクドナルドで働いていた男は、店長からそう言われ、その年の有馬記念で走る唯一の芦毛馬の単勝式馬券を買った。
「M、帰ったらな、このビデオ100回見てみ。こんなぶっちぎって菊勝った馬なんていーひんから。ほんま間違いないで。ほんまに強い馬。亀山がゴールデングラブ取るて開幕前から言うとったん俺だけやろ。そんな俺が言うんねやから間違いないっちゅーねん。」
そう言われて賭けた額は50,000円。学生のアルバイトとしては、かなり大きな額だった。
店長がそう言うからではない。帰宅して見たビデオに映る芦毛の馬はたしかに強かった、いや、強い弱いにかかる形容詞を超えた存在に映った。その姿はもはや凄かった。ブリンカーを外して以降の勢いは当時の競馬ファンであれば、誰もが知っているとのことで。
   菊花賞では、4コーナーを先頭で迎え、そこから更に後続を突き放しにかかる。ゴール板を迎える頃には後続に5馬身以上の差をつけていた。ワールドレコードでの勝利だったのだから、彼が50,000円を賭けるのも自然のことだった。もちろん人気も集めていた。
   そして、迎えた有馬記念当日、1番にゴール板を駆け抜けたのは、1年ぶりにレースに登場した馬、そうトウカイテイオーだった。Mが賭けた芦毛の馬ビワハヤヒデは敗れたのだった。
   その後、彼女から生活費を借りてなんとか年末を越え、結局その彼女と結婚し、いまや19歳の娘を持つ俺の上司。毎年菊花賞の時期になると、その上司Mが経験したこの一件について考える。過去のレースを振り返っても、菊花賞といえばビワハヤヒデ

 

   思わず、こんな感じで極端なペシミズムに陥ってしまうのが、競馬というドラマの致すところ。レースが終わった数年後に「あのメンバーは本当に強かった」と管を巻く、そんなおじさん方をずっと見てきたし、自分自身そういうところがないとは言えない。
   だからこそ、過去の出来事を持ち出して管を巻きたくないと思っている。今年のメンバーも騒がれてはいるけど、本当に強いのかどうかはわからないというのが正直なところ。
   ただ、唯一間違いないことがある。それは、レースが終わって、勝って引き上げてくる馬こそが偉大な馬であるということ。人気とは裏腹に、その資格を秘めている馬こそ、エアスピネルだ。

 

   よくマイラーだと言われたりしてますが、クラシックディスタンスで着順をまとめてきているこの馬に対してマイル向きという判断は俺にはできない。ダービーでもそつなく乗って4着。タイプでいうとC強めのM系だと思うので外枠から先行ちょい差しみたいな競馬がベストだと思うけど、ここは名手武豊に委ねる(というか、常に委ねるしかないんですけどね)。前走控えさせたのも今回距離延長で楽に前につけるための作戦だと理解しておりますが、どうなんでしょう武さん?

 

   神戸新聞杯で俺がゴリゴリに推していたアグネスフォルテも馬券内がないとは思わないが穴人気気味。そこで目が向いたエアスピネル。考えてみれば母はエアメサイア。そして近親にエアシャカール。息子も同じく最後の1冠を掴みとる。ペシミズム上等。そんな感じ。今年、菊花賞は現地で見る。