花火が行われる府中(JDD)

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 7月10日の17時12分、東京競馬場と府中本町を結ぶオケラ街道を歩く人たち。そこには2つの対照的な顔があった。いつもであれば、向かう方向は同じ、その日の博打の勝者と敗者というわかりやすい構図だが、この日は違った。

 互いに別々の方向へと歩く両者の一方は、国営競馬の最終レースが終わってからも競馬をやめられず、府中競馬場の片隅(の片隅の片隅の片隅の地下深く)へと出向いてまで、盛岡競馬のメインレースを購入した博打打ちたちの蒼白な顔、そしてもう一方はというと、ひと夏の一大イベントに興奮し、上気しきった表情。両者の違いは顔だけにとどまらず、足取りも違えば、会話も違う。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のゾンビ(正確に書くと彼らのことをロメロは“ゾンビ”という言葉ではなく、“グール”と表現してたけど)のような姿勢の集団が居るかと思えば、かたや『(500)日のサマー』でミュージカルを踊るトムのように、重力がそこだけ無くなっているかと勘違いするほど軽やかな歩様。

「1時間前にタイムマシンで戻ってありったけの金を集めてアルバートドックにつっこませてくれねえかな」

「そしたら、俺も金貸すぞ」

「せやけど、もう1回同じレース展開になるとはかぎんねえけどな」

といった、一切生産性のない不毛な会話が聞こえる一方、

「着いたら何食う?」

「かき氷じゃね?」

「いーねー!」

「座って見れるといいんだけどね!」

「あたしはどっちでもいいよ、今年も花火一緒に来れただけで最高!」

という、羨ましい中学生カップルの会話。

 そう、その日は府中競馬場で花火大会が行わる予定となっていた。中学生にかぎらず、メインレースが近づくにつれ、浴衣を着た若々しいアベックの数が増え、負けが募っていくこととは別の憤りが高まっていく中「まあ…俺も…女と…花火とか…来たこと…あるし……」と言い聞かせながら、隣にいる男どもの顔を眺めながら購入した馬券はことごとくすり抜ける。馬柱でもパドックでもなく、女のケツを見てるんだから、ハズレ馬券も当たり前といえば当たり前。

 

 そうしてできた数万円のマイナスを取り返そうと意気込み、今度こそは、しっかり馬柱を読み込んだ。明日は、南関東3歳3冠レースの最終戦。大井で中央・地方を含めた3歳ダートの頂点を争う第18回ジャパンダートダービーが開催される。歴代の王者を振り返れば、そうそうたる顔ぶれが並んでいるが、今年の3歳ダート王者に輝くのはどの馬か。

 夏競馬に慣れつつある脳みそでは処理しきれないほど、1・2着が並ぶ美しい馬柱。中でもカツゲキキトキトは1着続きのただただ美しい戦績。タイム的には明らかに用無しな馬だが、名古屋を代表する当馬が殴りこんできて、移籍初戦で東京ダービーを制した“ヒール”バルダッサーレもかつての戦場で、当時かなわなかった馬たちへと再挑戦する機会を得た。これまでの戦績が4・1・0・0のゴールデンバローズは地方への適性が疑われるものの、中央の大将格として地方馬の殴りこみを受け止めにかかる。そして、そのゴールデンバローズに唯一土を付けた馬、ケイティブレイブは大幅な鞍上強化でこのレースに挑戦。こうした人気メンバーの中で見ると、ドラマ性は薄いかもしれないが、実直にレースをこなし、着実に着実にタイムを短縮。はっきりとした成長の見て取れるストロングバローズに最も重たい印を打つと決めた。

 カツゲキキトキトにおける持ち時計、バルダッサーレにおける圧勝したレースの相手レベル、ゴールデンバローズにおける地方適性、ケイティブレーブにおける枠順・休み明けなどなど、人気を集めそうな各馬にも不安要素はあるが、ストロングバローズにはもっとある。なんといったって初の地方コース参戦だ。ゴールデンバローズのように、初の地方戦では辛酸を舐める結果となるかもしれないが、休み明け2走目での上積みはどの馬よりも期待できるし、距離適性も読みやすく、延長が向くとしか考えられない戦績。そして何よりも同い年のスター馬の後塵を拝し続けながらも、地道に成長を重ねてきた彼こそが王者に相応しい。中学生で女の子と花火デートをするような、イケイケな戦績の馬ゴールデンバローズを、成長したストロングバローズが圧倒する。俺の顔も満面の笑みとなり、財布も分厚くなる。

 

 いや、それにしても府中の花火ってキレイらしいじゃないですか。来年こそは最終レース後、かき氷でも食べながら時間をつぶして、若い時の薬師丸ひろ子似の彼女と共に満面の笑みで花火を眺めたい所存です。