『銃夢』を読んだ

ロバート・ロドリゲスがメガホンを取って『銃夢』を実写映画化。プロジェクトが噂された当初は「はいはいこのパターンね。こちとらAKIRAで何回も同じ手口かまされてますから。全然真に受けてませんよ。どうせポシャるんですよね。」と相手にせず、撮影が延期されるにつけて「ほら見たことか!」と嫌味ったらしく息巻いていたんですが、数年前を境にトントン拍子のスケジュールで完成し、来たる2月22日には『アリータ : バトル・エンジェル』というタイトルで日本公開…と、嬉しい誤算。私の見通しの甘さはさておき、賛否両論ドンと来いの座組み、良くも悪くもチャレンジングなキャラクター造形は、なんとも製作陣の覚悟を感じるものでした。そう来られては、こちらも丸腰で臨むわけにはいかんですね。というわけで十数年振りに読み返しました(といっても映像化される4巻までですが…)。

 

銃夢(1)

銃夢(1)

 

銃夢』は一言で言ってしまえば、自分が自分であるための証を求めるサイボーグ少女の活劇譚といったところでしょうか。

と、さっぱり書いてしまってはわざわざこのページを訪れてくれた人に恐縮なので、映画原作の底になっている部分のストーリーをざっくり雑に追ってみることとします。映画観たあとに「原作どんな感じなんだろ〜」と思う人もいるでしょうし。というわけで……

以下ネタバレ注意!

描かれるのは遥か未来。世界は空中都市ザレムとその下にあるクズ鉄町に分かれていて、クズ鉄町で暮らす人々にとって、ザレムは一体どんな都市なのか知る由もなければ、訪れたことがある者もほとんどいない。二つの意味で雲の上の都市。

そんな世界のクズ鉄町側で整備屋兼賞金稼ぎとして生計を立てるイドが瓦礫の山から2~300年前につくられたと思われるサイボーグ少女の頭部をたまたま発見することから物語は始まる。

イドは何かに取り憑かれたように、その少女が動けるように身体のパーツを見つけ、手術を施し、意識の戻った少女に“ガリィ”という名前をつける。

イドの愛情で不自由なく生活を送るガリィだったが、「与えられた幸せでは満足できない」と思うようになり、イドと共に賞金稼ぎとして夜な夜な犯罪者を狩る生活が始まる。ガリィは記憶を失っていたが、かつて身につけた武術は体に染み付いていて、超人的な身のこなしができることをイドは知る。そこでイドは悩みながらも、より賞金稼ぎ向きの身体をガリィに与える。その時、なぜ賞金稼ぎになるのかと問われたガリィは「自分自身のため」と答える。生きている意味、つまり自分自身の証を求める彼女は自分自身の出自が知りたい、その記憶の手がかりとして、体が覚えている武術を活用した賞金稼ぎとして活躍し……といったあたりが冒頭部分。

以下さらにネタバレ注意!

そのうち、空中都市ザレムに行くことを夢見る健気な少年ユーゴに出会いガリィは恋をする。しかし、彼は「1000万チップ溜めたらザレムに連れて行く」と大人から吹き込まれ、隠れてチンピラ稼業(サイボーグから脊髄組織を奪い取って闇ブローカーに流す)に精を出す生活を続けていた。一方、そのことを知らぬガリィは恋に悩む少女状態。彼女はアンドロイドなので、自分の思いをそのまま表現したら、抱きしめた時に彼の体は粉々になってしまう。アンドロイドなりの悩みも重なって、どんどん恋の病に陥る。すったもんだあって、彼は賞金首になってしまい、ガリィもユーゴの素性を知ることになる。それでも彼への思いを捨てきれないガリィ。最後には、ザレム行きの話も嘘だったことを知った少年ユーゴが自暴自棄になり、命を落としてしまう。最悪の形で好きな人を失い、傷心したガリィは少年との苦い思い出もイドの愛情もすべてを忘れようと、家を飛び出し、西部へと赴きます。

ここから更に更にネタバレ注意!

西部では、モーターボールという格闘球技が人気を博しているようです。ガリィは西武で知り合った周りの人からサポートを受けつつ、モーターボール選手として名を売り始める。何かを無理やり忘れようと他の何かに熱中しようとすること、ありますよね。

一方その頃イドは、突然いなくなったガリィを愛憎交った心持ちで捜し求める。イドはガリィがモーターボール選手になっていることをひょんなことから知り、現地に足を運び、面と面を合わせるのだが…… ガリィは我関せずの表情で踵を返す。ストイックさが外に向いてしまって、しまってるわけです。

そうこうするうちに、ガリィはモーターボールのトップ選手と対戦する機会を掴み、その死闘の果てに記憶を取り戻しかけて……

というあたりまでが、映画で描かれる物語の原作部分。ラストシーンは酒場のシーンでしょうか。

以上ネタバレ終わり!


要は、ガリィが闘いを通じて「自分は何者なのか」を追い求める道程で、間接的に「人間とは何なのか」を描くってわけですね。

人間には戻れないサイボーグだからこそ、人間についてよりよく考え、人間らしく行動する。

「私が私である証はなにもない。あるのは、機甲術という武術を体が覚えていたこと。それが手掛かりとしてあるだけ。」という台詞や、「考えてみればガリィという名前も本当の名前じゃない…外見の体も交換可能で、私であって私でないもの…道具に過ぎない。本当の私っていったいなんだ? この目をとおして、外を見ているこの私はなんだ。」というモノローグからもそのテーマは顕著。

SFにおけるサイボーグは、ロボットと違って心はあくまでも人間のもので、それだけに生きていくことに対する苦悩は大きい。それをエンジンに展開する話が多いですが、銃夢もそれに違わず、サイボーグだからこその人間的悲哀という情緒的なテーマが根幹にある。それを過激な描写・展開で振り回し、それぞれの要素がシーソーを上下に揺り動かしながらバランスを取り合おうとしてる間のような歪な均衡を保った作品。快作。


アクションの多い漫画で、初読の頃(床屋で散髪待ちの間によく読んでました)から、これ動いてる絵が見たいなーと思っていただけに実写化は楽しみです。なんてったって!あの!ロバート・ロドリゲスが撮るわけですからね!こりゃあ銃夢独特のいなたさも相まってたまらんデキになるんじゃないでしょうか!

曖昧な言葉になりますが、手触り感というか、温度感というか、そういうシーンをひとつでも多くみれたら至福。そうしてこそ予告編で既に公開されているモーターボールのキレキレアクションも際立つわけですから!期待!大!

 

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ちなみに漫画では全くギャグ要素ないシーンであからさまにグレイス・ジョーンズを思わせるキャラクターが登場する謎演出があるんですが、映画にも登場するんでしょうかね。はてさて。