『グラビティ 繰り返される宇宙』を観た

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タイムトラベル、歴史改変、タイムパトロール……時間を主題にしたSF作品は数多くあるが、タイムループもののSFは、時間をテーマにした作品のなかでもとりわけ人気が高い。海外では1958年のリチャード・R・スミス『倦怠の檻』、日本国内では筒井康隆が著した『しゃっくり』に端を発し、時をかける少女の大林版映画を通じて広く知られることになったジャンルであるが、定期的に小粒な良作が生まれており、今作もまさしくその内の一つだった。いやはや良かった。

宇宙空間でタイムループに陥ってしまった男が、愛する人を守るべく奔走する姿を描いたSFサスペンス。元刑事のコールは、恋人を乗せたままデッドゾーンで消息を絶った宇宙船アトロパ号を追跡していた。予定より早く船を発見し乗船するが、アトロパ号は不明船と衝突し航行不能に陥ってしまう。その衝突船はなんと過去のアトロパ号で、しかも船中には自分たちの死体があった。そして船外には、さらに過去のアトロパ号とその脱出ポッドが無数に浮いており、惑星の重力に囚われて輪を作っていた。未来のアトロパ号が自分たちに衝突する時間が迫る中、このループから抜け出して恋人を救うべく、究極の選択を己に課すコールだったが……。

と、公式サイトにあらすじが記されているものの、核心はよりテクニカルなところにある。


時をかける少女、恋はデジャ・ヴ、うる星やつら2、オール・ユー・ニード・イズ・キル、ルーパーなどの典型的なループものや、ループ現象が起きていることに気づかず展開される物語、主人公だけが昔の自分に戻り、人生を何度もやり直すリプレイものがループものの小分類としてパッと挙げられるが、今作はそのどれにも位置せず、ループものではあるもののループを直接的に描かず、より大きなテーマと交差させている点が白眉。ややネタバレではあるものの、可能世界論とループものを掛け合わせて一つの面に並べた良作といえるだろう。

歴史改変ものをイリュージョンとすれば、タイムループものは言わばクローズアップマジックだと例えたのはたしか大森望だったが、今作『グラビティ 繰り返される宇宙』は、実にテクニカルなマジックで、一体何をやっているのか理解に追いつけないほどのスピード感で、いつの間にかイリュージョンを見せられているような、有限で無限を描いたような……

胃もたれするほど、オマージュ・展開・仕掛け・演出をマシマシに盛り込んだ映画が増えているなか、というかなんというか……

映画はコスパだと言わんばかりに、冗長な展開にもかかわらず平気で120分を超える(なんなら150分を超えるものもざらにある)上映時間で1本の映画をフィックスさせることが当たり前というスタイルがはびこるなか、理由はなんであれ(まあ予算なんでしょうけど)、このスピード感でワンアイデアのSFスリラーで風呂敷をこれでもかと大きく広げ、それをなかなか綺麗に畳んだ、実にSF密度の濃い映画ですね。これ、特集上映の枠に留めておくにはもったいない一本。万人に……とは言わないまでもSFファンの首根っこは確実につかむ一作。いやあ、おすすめです。