ハズレ馬券を拾い集めてみた

Gallopのエッセー大賞に応募しようと書いた原稿をブログ用に魔改造してアップするという試みのエントリです。
応募した原稿のテーマは、“ハズレ馬券を大量に拾って、それらを比較検討することで立ち現れる「競馬場・場外馬券場ごとの差異」ならびに「馬券の平均値(券種ごとの平均点数・平均金額など)」を探ってみること”でして、それをまあエッセイたらしめる要素を散りばめつつ書いてみたわけです。
が、まあ、それはさておき、ここでは馬券を拾い集めるうえでの由無し事、そして応募した原稿では触れることのできなかった、個別の馬券について書いていきたいと思います。魔改造魔改造
最後には次回作(なんて書くと大それた感じですが、好きで楽しんでやってるだけです)の構想なんかも記してますんで、どうぞ暇な時に一服気分で読んでもらえると幸いです。
そこそこ長くなってしまったので、暇な時に、がおすすめです(と、この一文は4,5割ほど書き進めた時点で書いたのですが、書き終えた頃には、その時想定していたさらに倍の長さになってしまいました……というわけで、ほんとうに、暇な時に、がおすすめです)。
ちなみにGallopのエッセー大賞が箸にも棒にも引っかからなかった場合は、恨みつらみとともに原稿をそのままアップする所存ですので、テーマに興味を持っていただいた方々は、しばしお待ちくださいませ。
それでははじまりはじまり〜。

 

はじめに
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いつだって競馬場・場外馬券場には数多の馬券が散乱していますね。地見師と呼ばれる人たち(アメリカには捨てられた馬券を収集するだけで家族を養ってきたという男性もいるらしい)が存在こそするものの、ほとんどの来場者にとっては、それらはどこからどう見ても「ゴミ」と称するほかないでしょう。しかし、前書きでも触れたとおり、私にとっては、それは大切な資料。まずは、ハズレ馬券を比較観察するにあたっての心構えから書いていきたいと思います。


羞恥心の放棄がスタートライン
あなたはハズレ馬券を拾ったことがあるでしょうか? あったとしても、たかが数枚、床に落ちている馬券を拾い見て、ハズレっぷりをほくそ笑んだことがある。といった程度ではないでしょうか。
採取を始めた当初の自分自身がそうだったんですよね。馬券を拾い集めた経験などなく、なになら乞食じみた行為に相応の羞恥心を感じていて、いそいそと必要最低限の体の動きで腰を屈めてみたり、なるべく人様の邪魔にならぬような採取行動で成果は1日100枚未満……  集めようと頭では思っているものの、ガキの使い程度の馬券しか集めることができない……
とはいえ、ハズレ馬券を集めて比較して浮かび上がってくる数字には興味があるし、なにより〆切も迫っていたgallopのエッセーに応募するテーマはこれだと既に決めていたわけで。じゃあ、もうやるしかない、と。でも、やるんだよ! と、そういうわけで、もう思い切ってやってみることにしました。
唐突な根性論ですが、羞恥心を放棄することこそ馬券採取のスタートラインです。ナンパでもなんでも(やったことないですが)、一歩踏み出すことが難しいだけで、いざやってみれば、なんてことはないもんです。というわけで、羞恥心を放棄してみると、なんとまあ、それだけで簡単に集まる集まる。
ポイントは、とにもかくにもゴミ箱の中に捨てられた馬券があることも目視したら、何も考えず、一直線に手を突っ込むこと! メインの採取スポット ゴミ箱だけでなく、床に落ちている馬券も拾えば、券売機横に設置されている「不要投票券はこちらに」ボックスの中に捨てられた馬券も恥をかき捨て掻っ攫っていきました。
競馬場・場外馬券場なんて、自分の馬券に精一杯で周りの行動にやっかみを付ける人なんてほとんどいないですからね。気にしない気にしない。何も気にせず、恥を捨て、ハズレ馬券に目を光らせることが肝要です。
ただし、飲食スポットが近くにあるゴミ箱には細心の注意が必要。想像にやすいでしょうが、飲み残しや食べ残しがぶち込まれていることが多いんですよね……
また、私が実際に採取を行っている最中、ゴミ箱に向けて痰を吐きこむ爺さんもいました(他にも驚愕させられる現場には散々遭遇したものの、それは本稿で触れてるんで割愛)。
そうしたトラップがちらほら潜んでいることに警戒しながら、数ヶ月間採取を継続。合わせて3万枚程度の馬券を各場から収集しました。

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ちなみに、競馬場・場外馬券場によって、ゴミ箱のスタイルは多種多様。大井競馬場は中の見えない蓋回転式ゴミ箱がほとんどなので採取のハードルが高いといえるでしょう。写真はJRA主催の競馬場・場外馬券売り場で設置率が最も高いスタンダードタイプ。このタイプは採取が容易ですね。

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ちなみに川崎競馬場のゴミ箱はこれ。スタンダードタイプではあるものの、バージョンが微妙に異なる。そして、川崎競馬場はゴミ箱の前面にそのままビニール袋を設置することで、ゴミ箱の容積を拡張しています。中央ほど清掃員に予算をかけられないからでしょうか。工夫ですね。


分類・集計は“機械の気分で”
集めた馬券は、なるべくその日のうちに、チェーン系居酒屋だとか、ファミレスだとか、テーブルの広いお店で開催場所・レース番号別に仕分けていきます(いい歳した兄ちゃんが広いテーブルをいっぱいに使って馬券を並べているさまは異様な光景でしょうね……)。
この際にレース結果も照らし合わせながら分類を行っていくと、馬券購入者の心理もうっすら感じとれるうえに、そこそこの確率で当たり馬券が混入しているので、後人がいれば是非その方法を勧めたいところです。
分類を行った馬券は、採取日次・採取場所・開催場所・レース番号・買い目・買い方・金額と項目を分け、エクセルに入力。
とまあ、なんとも地味な作業を機械の気分でこなしていきます。この作業はただただ苦痛。おそらく交通量調査のバイトに似た感覚を得られる作業。特に気をつけることもないです。ただただ機械の気分でこなしていくのみです。

 

馬券全体の傾向を観察する
とまあ、そうして、算出されたのが以下の数字です(極端な値を誘引する数枚の馬券は意図的に省いています)。
東京競馬場
採取枚数 9,432枚
券種割合 単勝:9.3% 複勝:5.6% 馬連:16.2% 馬単:9.4% 枠連:7.2% ワイド:10.3% 三連複:20.6% 三連単:21.4% 
券種別平均購入点数 単勝:1.34点 複勝:1.1点 馬連:4.47点 馬単:4.44点 枠連:3.52点 ワイド:3.01点 三連複:6.12点 三連単:8.76点
券種別平均購入金額 単勝:465.9円 複勝:781.6円 馬連:281.1円 馬単:230.3円 枠連:271.4円 ワイド:425.3円 三連複:187.7円 三連単:142.0円

WINS後楽園
採取枚数 8,615枚
券種割合 単勝:8.1% 複勝:5.7% 馬連:12.7% 馬単:10.1% 枠連:8.6% ワイド:8.9% 三連複:20.2% 三連単:25.7%
券種別平均購入点数 単勝:1.42点 複勝:1.15点 馬連:4.58点 馬単:4.95点 枠連:2.53点 ワイド:3.21点 三連複:6.14点 三連単:8.76点
券種別平均購入金額 単勝:627.8円 複勝:947.3円 馬連:294.2円 馬単:238.7円 枠連:413.2円 ワイド:275.1円 三連複:192.8円 三連単:132.8円

数字だけ並べてもなんじゃらほいですね。というわけで図版も載せてみます。
券種別割合
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券種別平均購入点数

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券種別平均購入金額

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皆さま自身が普段購入している金額、点数と比べて、いかがでしょうか。
私の場合、馬連を5頭に200円、もしくは300円ずつ流すのが基本的なスタンスなので、そこそこ一般的な馬券購入者といえるのでしょう。
これは、私のような貧乏暇なし馬券ファンの背中を優しくさすってくれるような結果になったといいますか、なんといいますか。
競馬はギャンブルであるがために「いかに金を稼いだか」をある種の絶対的な価値基準と認識している人が一定数いて(その考えを否定するつもりこそありませんが)、いわゆる100円単位の豆券が馬鹿にされることが時折ありますが、実際に購入されている馬券を見てみると、上の数字の通り、ほぼ豆券に近い購入額ですね。
これは、私のような貧乏暇なし馬券ファンを励ます結果になったといいますか、なんといいますか。
ちなみに、ここでは紹介を省きましたが、地方競馬場(大井競馬場)と地方の場外馬券売り場(オフト後楽園)で購入金額を比較してみると、現地よりも場外の方が平均購入金額がかなり安い(JRA主催とは逆ということ)という点は興味深く受け取りました。
あくまで推測・観察の域を超えない、もはや偏見に近い考えなのですが、これは採取を行ったオフト後楽園の客層によるところが大きいのだと思います。
オフト後楽園は競馬歴がかなり長いと見受けられる方が多く、日がな一日馬券を購入しているご年配の方々がほとんどなわけです。
それだけ、長期間競馬を楽しもうという意識が強い人が集っているがゆえに、大勝負をすることなく、少額で馬券を購入する人が多いぶん、傾向が逆転したのではないだろうか、と思うわけです。
それは決して悪いことじゃなくて、むしろ素晴らしいことといいますか。
競馬場・場外馬券売り場によって、購入される馬券の傾向が変わったり、金額が変わったり、それはある種の社会学的な(というと随分大げさですが)価値を感じてしまいますし、くわえて時代ごとの観察もできれば、それはある種の文化人類学的な(というと随分大げさですが)トピックたりうるのではないか、とすら思っています。
なんとも全国各地で同じ試みを果たしてみたいものですね。
園田には園田の、水沢には水沢の、小倉には小倉の…… その土地土地で必ずや傾向・特徴が表れてくると、予見しているので、gallopのエッセー大賞に入選したら、その賞金でどこかの競馬場に取材に行きたいなあと考えています。

*先回りの補足
JRAが公式に発表している券種割合(金額ベース)を公式ページの成事業報告書から引っ張ってくると
単勝:5.6% 複勝:8.1% 馬連:14.5% 馬単:7.2% 枠連:3.4% ワイド:7.2% 三連複:19.9% 三連単:32.8%
というわけで…… この数値にあわせて、私の採取した馬券を金額ベースの券種割合にすると、
単勝:6.7% 複勝:5.5% 馬連:15.0% 馬単:10.5% 枠連:7.9% ワイド:6.9% 三連複:21.0% 三連単:26.3%
なので、比較検討するうえで、そこまで説得力のないサンプルということはないと思います。
が、重箱の隅をつつかれるのも面倒なので付記しておきますと、まず、もちろん現在ではインターネット投票システムが整備されていて、この調査では浮かび上がって来ない数字もあります。こればかりは仕方ないし、もう少し地場的な観察作業がしたかったんで、そこはまあ良しとさせてください。
さらに書くと、ここで調べた結果が全競馬ファンにとっての適切な標本を代表していると主張するつもりはないです。そして、こうした分析の結果や解釈が標本に完全に依るものではないことも百も承知。だとしても、この調査によって浮かび上がる数字には、ある種の指標としてなんらかの価値があるはずだと思いたい……思いたいのです……

 

馬券1枚1枚を観察する
パラノ気味な言い訳はさておき、ここからは拾った馬券のうち、特に印象深かったものを中央・地方1件ずつ紹介していきたいと思います。

絶対に当てなければいけない勝負がそこにはあった……?
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朝から1レースも欠かすことなく馬券を買い続けるも、予想はてんで的外れなものばかりで、財布の中身も減ってきた。まずはなんでもいいから当てることが大事だ。そこからツキを呼び寄せてなんとか挽回していこう。そうだ、次のレースは絶対に当てなければいけない勝負だ。
そう思ったかどうかはわからないが、当たらずといえども遠からずな推測だろう。自分自身似たような心境になることがないとはいえません。
そんな男が買った馬券は単勝全頭均一買い。
ハズレ馬券を採取していると「予想の放棄」に遭遇しがちなんですが、ここまで潔い「予想の放棄」はある種の男らしさすら感じます。
ちなみに、馬券右下部にある発券番号が30184601…30184602………30184605と並んでいるものの、30184604の馬券のみ抜け落ちているので、一連の馬券群は1人の人物が連続して購入した馬券であること、そして30184604の馬券は的中しているということがわかるわけですね。

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結果は360円の払い戻しで、的中していながら-1,440円という悲しいものに。ハナ差2着に敗れてしまった9番人気トモジャクアルトが1着に入線していれば、払い戻しは4,260円。
馬券購入者のツキのなさが垣間見えるあたりも味わい深いポイントです。


一か八かにかける漢
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川崎競馬場で採取した際、思わず「おー」と声をあげてしまった馬券がこちらです。1Rに投じた金額は112,000円。長く採取を続けていても、これほど気合の入った馬券に遭遇することは稀なことです。
しかし、馬単ボックス56点買いとはこれいかに…… 上限を見れば708.8倍のオッズもあるものの、下限は11.1倍。そしてトリガミになる組み合わせが19通り。56点中19点がトリガミになるにもかかわらず、男はいったいなぜ大勝負に打って出たのでしょうか。
12頭立てのレースで、消した馬はたったの4頭。
どの馬を消したのかと探ってみると、10番人気・11番人気・12番人気の馬……と、ここまでは理解できる消し方なのですが、消した最後の一頭は4番人気のドリームマオなんですよね。
推測が一気に難しくなってきました。
ドリームマオは先行してしぶとい堅実な走りが魅力の馬で、C3での大崩れは考えづらい馬。この日のレースで特に調教が悪かったわけでもなく、当日の日刊競馬の印を見てみても、なぜこの馬を切る決断をしたのか謎は深まる。
吉原を嫌悪していたのでしょうか……(その気持ちはわからなくもない)
金持ちの道楽と言ってしまえば、それまでなのですが、そう簡単に納得できない強い意志のような何かをこの馬券からは感じました。
男がなぜこの馬券を購入したのか、皆様にも一度考えてみてほしいですし、ロジカルな見解に膝を打ちたい自分がおります。

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高額なハズレ馬券は、かける思いの強さゆえか、ビリビリに破り捨てられていたり、グシャグシャに丸め捨てられていることが多いのですが、この馬券はご覧の通りきれいな状態でした。
男は自分が唯一切った人気馬が悠々と2着粘りこみを果たそうという時、いったいどんな心境だったのでしょう。想像すると、ギャンブルの魔物が手招きしている姿が浮かんできてしまいます。

 

終わりに
さて、こうして個別のハズレ馬券を面白がりながら紹介しましたが、馬券を買うということは、基本的に自分が汗水流して働いたお金を賭ける行為なので、どんなにばかばかしい馬券であっても、なぜその馬券を買ったのか、必ず理由があるわけですよね。それを推察したり観察することはなんとも面白い、と思うのですが、いかがでしょうか。
個別具体的な馬券の推察という試みは名著『あやしい馬券心理ファイル』(情報センター出版局発行)シリーズで、すでに谷川弘虫(知られた話ではあるかもしれませんがかなざわいっせい氏の変名です念のため)氏が行われてますが、最近はめっきりハズレ馬券活動されていないようですし、楽しく著書を読んで育った後人として、書かせていただいた次第です。

と、好き放題書き続けていると、Gallopに応募した原稿よりも長文になってしまいました。
ここまでお付き合いいただいた皆様、この下の次回予告もついでに一読いただけますと、これ幸いでございます
そして、面白かったよ〜という皆様は、Twitterなりなんなりで拡散していただけますと、これまた幸いでございます。
それでは、以上をもって、Gallop応募原稿魔改造エントリを〆させていただきます。
長文読んでいただき、ありがとうございました。
繰り返しにはなりますが、いつか海外のハズレ馬券採取だとか、国内各所の競馬場で同様の試みをしたいと思っています!

 

おまけ

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なお、ハズレ馬券かと思って拾った馬券の中には当たり馬券も混在してしまっているもので…… 写真の馬券は5,720円の払い戻しとなる馬券でして、この他にもいくつかの当たり馬券が…… 馬券の管理には気をつけましょうね……(当たっていた馬券は全て各スタッフの方々へ返却しました。ということにしておきましょう)


次回予告
次回の更新は「人の予想を観察する」です。
いつになるかは未定ですが、現在最終レース終了後にゴミ箱を巡回し、捨てられた新聞をどかどか採取しております。
専門誌に丁寧に惹かれた蛍光ペンの意図を探ってみたり、スポーツ紙に書き込まれた謎の文字列を解読してみたり、はたまた、レーシングペーパーのみで予想をしている熟練の博打打ちがどのように競馬予想を行っているのか…… 何が見えてくるのか、見えてこないのか、さっぱり見通しはつきませんが、そんな「人の予想」に迫ってみようかと。