2017年ベストあれこれ

正月三が日を終えて世間様も通常営業に戻りつつあるこのタイミングで2017年を振り返り。

といいますのも、まだ30代にもかかわらず余命宣告を受けた友人や身内の訃報…なんとも生死に関わるいろいろが周りで頻発しておりまして。
新年早々の問わず語りまことに恐縮なのですが、いま生きていて何を感じているのかを残すことに関心が高まってきているのかもしれません。
というわけでして、自分にとって身近な本、音楽、その他もろもろ……みたいな順に列挙できれば。
このブログにたどり着いた皆さんとともに「あれいいよね!」と共感したり、「知らなかったけどいいじゃん!」と新たな出会いを楽しんだり、そんないろんな「いい」を振り返ることで2018年を楽しくスタート、ってなわけで。
自分が死んだ後に身内がこれを読んでいたら、あいつはこんなのを見聞きして楽しんでいたんだな、と思い出話の肴にでもしてください。

 

【本】

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仕事だからということを除いても、10年弱継続して毎年200冊程度の本を読むのはほとんどビョーキに近い。去年も読んだし、きっと今年も読むんだろう。本を読むのは快楽に溺れたいからという理由が大きくて、ほとんど性欲に近い。読めないイライラはヌケないムラムラに近い。


『ゴーストタウン』ロバート・クーヴァー
いわゆるポストモダン・ウエスタン。西部劇の定型をメタ的にパロディ化していて読みながら何度ニヤついたか…… 今年映画化されるキング『ダークタワー』の第1巻『ガンスリンガー』がネタとして特に捏ねくり回されていた。日本でも100人くらいの人間が冒頭10数ページを読み比べだと思う。ランズデールやアンナ・カヴァン、もちろんピンチョンにも通じる文学=フィクションの愉悦に満ち満ちた傑作。


黒人文学全集11 ニグロ・エッセイ集』
悠久堂書店でバラ1冊100円で投げ売りされていたところを他の巻とともにあるだけまとめ買い。初版は1963年だけど今年読んだので挙げる。抑圧を文化の力で乗り越えようともがいて生まれたもの(もしくは抑圧を文化の力で耐えてきた人間の語る言葉)はすべての報われない人間(つまり全人類)へのアンセム。まず街で見かけることはないでしょうが、見かけたら是非。イソップ寓話のような気づきにあふれた一冊、間違いない。昭和3,40年代は文学全集の流行りもあってか「こんなものまで?!」が書籍化されていて楽しいですね。


『RED ヒトラーのデザイン』松田行正
アメリカではトランプ政権が誕生して東アジア情勢もバチバチ。ポピュラリティーについて考えさせられたのが2017年だったといっても過言はない。となると過去の(負の)遺産から学びなおしたくなるもので。ヒトラーがデザインを通じていかにプロパガンダ推し進めていたか。類書『絶対の宣伝』が長らく絶版になっていて40,000円くらいの市場価格でなかなか手を出せなかった中で日本一聡明かつ編集者に優しいデザイナー松田行正さんが筆をとった力作(と思ったら上に挙げた『絶対の宣伝』も復刊していたもよう……)。ナチの凄みとそれ故の恐ろしさ。いま読む価値ある一冊。


『アンチクリストの誕生』レオ・ペルッツ
あえて大袈裟に書くと幻想小説と落語との邂逅。文章に秘められた意図もそれはそれはテクニカルなんですけど、もう単純に構造・物語が面白い。緻密さの上に成り立つ奔放さこそ芸術の真髄であることを“百年前の小説に”改めて気づかされました。それとそのはず、編集は藤原編集室。これはもう競馬で言うところのノーザン生産、浦和の小久保、春天武豊…… とりあえず買っておいて損はないというわけです。ボルヘスが太鼓判を押すのも納得、出色。


横浜駅SF』
なんだか固そうな本がずらっと並んだような気がするので最後はライトノベル枠(見つからず画像なし)。あらすじはというと「絶え間ない改築の続く横浜駅がついに自己増殖の能力を獲得し、膨張を開始して数百年後の日本」という。こんなの聞くと、それだけでワクワクするのがSF者の性。渋谷とかほんとそんな感じですもんね、一昔前の大阪駅とか。そんな風に実感に基づいた荒唐無稽な設定がどう収斂していくのか……ってもう勢いですよ! Twitterのつぶやきから始まった物語、だからこそ生まれ得た作品。実に平成の終わりに相応しい。

 

【音楽】
ジャズ・民族音楽を聴く時間が減った一年。これは間違いなく音楽環境をレコード→ストリーミングに移行させたから。Apple music、Sporifi、騰訊の音楽IPOの隆盛を眺めていると、同じような人は少なくなさそうだし、時代の流れなんですかね。今年はもっと雑多に聴きたい。


Painting Pictures / Kodak Black

 

ド級の不良が持ち合わせる繊細な感情に弱いんですよね。2017年で一番回転させたアルバム。収録曲の『Side Ni***a』は、愛しのあの娘の隣にいるイケてる黒人男性への恨み妬みを(多分)ゆったりオンビートできっちり乗せてしんみりグッとくる。アルバム通して青年期しか持ち合わせることのできない葛藤…それをメロウにまとめられたら遠く離れた黄色人種のおじさんもしっとりですよ。これで20歳!圧倒的タレント!!!


CAPTAIN GANJA AND SPACE PATROL / TRADITION

一時はebayで1,000ドル弱で取引されていた幻の名盤が復活。ダブ・レゲエファンにはもちろんのこと、思わせぶりなタイトルはGeorge Russel『Jazz in the space age』も連想させますし、あのあたりのフリージャズ、フュージョン好きな方も、ベースミュージックファンは誰もが味わえる。


No One Ever Really Dies / N.E.R.D

(U.Sのポップ枠的扱いでKehlaniと悩みつつこちらを……)どメジャーですが2017年で一番ゴキゲンなアルバムが年末に飛び込んできたので挙げてみる。そうそうみんなが好きなアメリカはトランプのそれじゃなくてこれっすよ。グループ名どおりナードな雰囲気が底を流れているものの、絶妙な味付けでアメリカンポップに仕上げてしまうのがファレルパワーか。聴きやすい、それでいて実にオリジナル。『Happy』でファレル好きになった人が聞けば、彼の新たな一面・底力に感銘を受けるはず。


Pizza / OOHYO


2017年に知って一番良かった女性シンガー(二番目に良かったのはものんくるのボーカルの女性)。シンプルに気持ちイイ。それにしてもKpopは雨後の筍のようにどかどかといい歌い手が出てきますね。産業構造の違いと言われれば、それまでなんですが負けるな日本!


MODERN TIMES / PUNPEE

この一枚を挙げる気恥ずかしさがないわけではないけど、そんなものすっ飛ばして、ずっとアルバム待ってましたし、2017年の音楽を振り返る上で外せない存在なのは疑いようなし。アルバムリリースだからこそ…が考え抜かれていて、一聴するだに「クラシックが生まれた!」と気づかされましたし、日本語のひぷほぷファンの方々はみんなして盛り上がりましたね。水曜日のダウンタウンでその才能を国民に知らしめ、音楽ファンからも支持を集め、その人気・期待度の高さが白日のもとにさらされた彼が次にどんな鮮やかなステップを踏み出すことやら。楽しみす。


とまあ、主に競馬に関する由無し事を綴ってきたブログなわけですが、たまにはこんな更新があってもいいじゃないですか、ええ。
(本当はグッときたレースや美味かった酒なども列挙しようと思ったんですが、長くなったのでこの辺りで……)

今年もどうぞよろしくお願いします。