諸行無常の響きあり(七夕賞)

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 アイデンティティの確立に揺れ動いて、まるで『ゼイリブ』のように、目にする大人全てが悪者に見える頃、そんな鬱屈した精神に寄り添うような音楽ジャンルがある。ティーネイジャーが熱狂する音楽というか、なんというか。ある時代では、それがストーンズであり、ピストルズであり、ブルーハーツだったろう。だけど、そうした音楽すらもメジャーサイドの音楽だからとそっぽを向き、拠り所を求めるのが小っ恥ずかしいと思ってしまうのが、思春期をこじらせてしまった連中のめんどくさいところで、そういう少年少女は一定数いる。高校生になった途端髪型をYUKI風ボブにするようなサブカルブスが聞く音楽は、もっとマイナーな、もっといえば、ローカルな音楽だった。そして、都市ごとに、そんな少年少女を夢中にさせるバンドが必ず存在した。あなたの街にも現在進行形で居るはず、多分。10数年前の広島にはTHE CRANE FLYというバンドが居た。思春期のめんどくささでオカしくなっていた、自分を含めた少年少女は、誇張ナシで全員このバンドにハマっていた。

カラオケで

「茨の道を歩く時月明かりで照らしてほしい

 後ろを振り返らぬように」

だの

「いつまでも僕を見守っててくれるかな

 いつまでも僕は 君の手を離さない」

だのと、そのライブで知り合った女に向けて歌うという、今思い返すと甘酸っぱさを通り越して、“キツい”の3文字しか浮かばないエピソードもあるし、彼らの音楽は1枚100円ちょっとの安MDでなく、SONYのESモデルというハイクオリティーMDに録音していた。なにより、今、この歌詞をソラで書けているくらい夢中になっていた。

そんな自分もいまとなっては、

「もしもこの舟で君の幸せ見つけたら

 すぐに帰るから僕のお嫁においで」

だの

「ジャガジャガのむのもフォドフォドに

 ここらで一発シトロエン

と、湯船につかりながら口ずさむのが至福だし、せいぜい、新譜を追っかけるのが精一杯。1つの曲、1つのアーティストを聞き続けることは全く無くなってしまった。Chance the rapperの『Coloring Book』は良く聞いたなあ、と思ったけどiTunesで再生回数を見てみると、たったの15回。これは、年を重ねることで、夢中になれるものが減ったという悲しい事実であるとともに、年月がそれだけ人を変える力を持っているものだということに思う。

 

 今週末の重賞、七夕賞は競走馬としての経験を積み、年を重ねた馬が活躍する舞台。今年も例年通り、老練な馬が集まった。人気を集めそうな4歳馬アルバートドックは、七夕賞を勝ち切るには若すぎる。戦績自体は、すっかり成長しきったように感じられる当馬だが、まだまだ思春期の少年ばりにアイデンティティの確立に思い悩んでいるのだと踏む。(というか、転厩してから絶不調なうえに使い詰め、長距離遠征もプラスとは言えないとなると買、人気では買いたくないなあ、と)無視して最も重い印を打つのは、6歳馬のバーディーイーグル。いかにもブライアンズタイム産駒らしい戦績で、集中して勝ち始めたらまとめて連勝するタイプ。前々走3着、前走1着の流れは集中力を高めている兆しに違いない。ニジンスキーの血が入っているというのも福島コースで絶好の高材料。持続力のあるタイプが向きそうだし、CDを全て売り払い、この馬を軸にした三連複に突っこむ。スパーキングレディカップをはじめ、昨日の川崎競馬にはひどくやられたが、そんなことはもうどうでもいいのだ。ギャンブルなんて、ペットみたいなものだと伊集院静も言っていた。たまに笑顔でこっちを振り返る時がある。その瞬間を見逃さないように博打打ちは馬券を買い続けていればいいのだ。それが七夕賞。この時。