予想を裏切る / 期待を裏切らない

f:id:BxKxN:20160629175948p:plain

 “期待を裏切らない馬”ドゥラメンテの引退が発表された。

 はじめて購入した馬券は皐月賞馬連の軸馬に据えて安い配当を手にした俺は、友人のRとともに新宿の「番番」へ向かった。店の兄ちゃんが競馬好きということは、前々から知っていたので、あの力強い走りについて共感してもらうべく、口角泡を飛ばして説明したものの、反応はそっけなかった。焼き鳥屋だが“きぬかつぎ”が最高に旨い店なので、たらふく食べて、飲んで、帰った。

ダービーはアルタ前で観戦。圧倒的人気だったけど、この馬を逆転する力を持つ馬は他に見当がつかず、単勝を購入し、手にしたのはまたしても安い配当。今度こそ、強さを認めてくれるだろうと思った俺はもちろん「番番」へと向かった。前回から引き続きドゥラメンテの素質について叫び散らした。どうせ素っ気ない反応するんでしょ、と思っていたが、意外にも帰ってきた反応は素っ気ないものではなく「あれは故障するよ、絶対故障する」という内容の説教だった。

骨折、凱旋門賞を回避した後、再始動に選択したレースは中山記念。この時初めてドゥラメンテを軽視した。両足骨折から復活した名馬の少なさ、そして何よりも18キロの場体重増は、強かった頃のドゥラメンテの姿に無いように感じたからだった。結果、俺の予想は外れ。

友人R、Sとともに「馬体重気にしすぎたか……」と消沈していると、馬券を見せびらかせながら、こちらに向かってくるおっさんが居た。手にしていたのはドゥラメンテ単勝馬券50,000円分。俺たちがその馬券に目を向けたことを確認すると「成長分、成長分」とニターっと笑った。あのおっさんもドゥラメンテの引退を悲しんでいるんだろうなと思う。

 

ドゥラメンテは、予想を裏切る強い馬なのではなく、期待を裏切らない強い馬なのだと感じた瞬間だった。「この距離は厳しいだろうなあ」「このコースでは厳しいでしょう」と思われながらもしっかりと勝つ馬ではなく、「この馬ならこの距離でも大丈夫でしょう」「この馬なら初コースだけど絶対にこなす」と予想されて勝ちきる馬。だからこそ、あのおっさんも50,000円という少なくない金額を張れたのだろう。どちらも強い馬で、似たようなことを言っているように聞こえるかもしれないけど、絶対的に違う。明らかにドゥラメンテは後者だった。この素質を凱旋門賞で見てみたかった。

 

普段は馬券を握りしめながらぎゃーすか言ってるおっさんまでも、テディベアを抱いてる女の子が口にするかのように「残念」だとか「感動をくれたよね」だとか、そういう常套句を口にしている奇妙な後楽園だったが、レースが始まれば、そんなことは過ぎた話。口々に騎手の名前を叫んでいて嬉しくなった。競馬の魅力に改めて気付かされた6月29日。

 

以上、俺にとってのドゥラメンテに関する思い出というか、なんというか。まあ、引退していたことを悔いていてもしょうがないっすよね。ドゥラメンテ産駒がパドックであの行進をする瞬間を見られるその日まで生きてようと思います。