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【酒場】馬と酒

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 調教に不安が伺え、東京コースも決して得意とはいえない、とはいえ、実績抜群、競走馬としても脂の乗り切った時期。その連勝っぷりは、歴代の名馬タイキシャトルに影を重ねられるほどの評価を受けた。単勝オッズは1.8倍。圧倒的な1番人気に支持されたモーリスが2着に沈んだ安田記念。先頭でゴール板を駆け抜けたのは、3年2ヶ月もの間勝ち星から見放されていたロゴタイプ。思い切った逃げを打ち、粘りこみ、乗り役の田辺も流石としか言いようのない思い切った騎乗で見事という言葉の他ない。右回り、特に中山で先行流れ込みしかできない馬だと思っていた自分の馬券は一瞬にして紙くずと化した。思わず頭を抱える日曜の16時半。俺の駄目なところは、勝って飲む酒も好きだが、負けて飲む酒も嫌いではないというところだ。

 「ベリーって誰だよ」とか「福永の野郎、自信があるとかほざいてたよな」と騎手の悪口からはじまり、「タイムマシーンで1時間前に戻ってありったけの金をかき集める」「でも、レース結果は同じになるかどうかわかんねえぞ」という話を繰り返したのち、来週の重賞に登録している馬を確認し合い、お開きとなる。この一切生産性がない話も悪くない。

 

 そんな酒席に最適な店がある。

 OLのアメブロじゃあるまいし、「素敵なカフェに行ってきた」なんてことを書くつもりはないけど、一言書き残しておきたい。関東在住の飲兵衛たちの間で、“この世の楽園”と呼ばれている『たぬきや』だ。飯も酒も適当さがいい具合。店構えも絶妙なヤレ具合で、行ったことがある人にはわかる感覚だろうけど、酒飲みを引き寄せてやまない独特の磁力がある。そうでない人にとってはただの川沿いの汚い店なのかもしれないが、この過ごしやすい時期に、こんなところで昼間から飲める場所があるなんて、抗いようなく吸い寄せられる、ごきぶりホイホイならぬ、飲兵衛ホイホイ。府中から電車で20分ほどというアクセスもいいし、季節を限定しての店開きというのも特別感があっていい。普段飲み屋に行けば、お通しがどうだ、酒が薄い、客筋が悪いだの、いろんなことが目についてしまうが、『たぬきや』は別格。小洒落た店で、高い金を払って、聞いたこともない名前のワインを傾け、お互いの仕事の話でもしながら、胸元がざっくりあいた姉ちゃんと駆け引きしながら飲む酒も悪くないが、俺が求めてるのはそれではなく、これだ。焼きそばを頬張りながら、カゴメジュースでつくられたトマトハイを煽りはじめると、もう犬が腹見せて寝転がってる状態、全面降伏といったところ。同行した中年鬱(吉田豪が言うところの“中年の思春期”)気味な先輩も心なしか晴れやかな顔になっていたように思う。